カール・レェーヴェの世界第13回
2003.5.25


1.Wilia und das Mädchen(ウィリアと乙女)作品50の1

 テキストはアダム・ミッキーヴィスクのバラードをカール・フォン・ブランケンゼーがドイツ語訳したもの。オリジナルの言語が解らなかったので、佐藤征一郎さんに伺ったところポーランド語だそうだ。楽譜を見てみるとドイツ語の歌詞の下にイタリックでポーランド語の歌詞が書かれている。書かれているだけでなくそれぞれの言語に合わせて旋律線も微妙に変化している。(譜例1)



 Andantino.12/8拍子、主調はイ長調。短い前奏の後、歌が始まる。ウィリア(小川)が美しい乙女を見初め奪っていくという伝承的なストーリーが語られる。ピアノ伴奏は八分音符の分散和音と連打の部分が交互に繰り返されながら曲を進行して行き、テキストの13行目からテンポが変化する。(piu agitato)そして転調を繰り返して緊張が高まり、イ長調のナポリの六の和声で物語の結尾(テキストの20行目)に到達する。(譜例2)


 再びピアノの前奏部が表れ、以後(テキストの最後の四行)はエピローグとなる。曲の最終部、主音Laのペダルの上で水底に沈みこむようにピアノの和声が半音階で下降して曲は終わる。(譜例3)




2.Der junge Herr und das Mädchen(若殿と娘)作品50の2

 作品50の二つのバラードのうちの2曲目。これもポーランド語のテキストのカール・フォン・ブランケンゼーによるドイツ語訳。道に迷った若殿が森の中で娘と出会って、さてそれからという民話のような話。前作と同じようにドイツ語の歌詞の下にイタリックでポーランド語の歌詞が書かれている。テキストは三つの章に分かれ同じ語り出しで始まり、それぞれの最終行が話の落ちになっている。曲のなかでもこの終わりの部分がリフレインのようになって、(譜例4)それぞれの章のまとめになっている。最後のピアノの八分音符のスタッカートのリズムがユーモラスな味をだしている。また各章の歌い出しは、これもメロディーはほぼ同じである。(譜例5)音楽は主として語りの面白さに重心を置いて書かれている。


 Allegretto grazioso.2/4拍子が主要なテンポ、主調はヘ長調。軽快なピアノの前奏に乗って物語は始まる(譜例5)。曲全体の構成はAA'A"とでも言えば良いだろうか。主要なテンポの2/4拍子とAndantinoの9/8拍子が交互になって進行してゆき最後にAdagioで話の落ちがつく。テキストの長さも関連するがこのパターンは三章ともほぼ変わらない。

3.Der getreue Eckart(忠実なエッカルト)作品44の2

 ゲーテの詩による全八節のバラード。Allegro.4/4拍子、ホ短調の前半部(第1〜3節)とAllegro Comodo.6/8拍子ト長調の後半部(第4〜8節)の二部に分かれる。始めの三節はほぼ有節的に旋律が付けられている。トレモロを伴った半音階で下降する旋律と減七の和声の増音程を含んだリフレインは夜道を帰る子供たちの恐怖を見事に描写している。(譜例6)もう一つ付け加えるとすれば、歌の各節の終わりの音が始めの二節は属音(Si)で第3節が主音(Mi)になる。そして最後にピアノが属音から主音にユニゾンで終止して後半のト長調へ移行する。(譜例7)この転換は簡潔で無駄がない。




 後半は五つの節がABABA(譜例8)と分かれる。Aはト長調、Bはニ長調と各楽節もほぼ有節的に配置されている。一見シンプルなメロディーラインだが伴奏の和声進行やメロディーの経過的な半音の使用等に一見常套的なスタイルのなかに何か特徴を与えようする意志がみられ興味深い。




4.Harald(ハーラルト)作品45の1

 ウーラントの全十三節のバラード。Alla Marcia, Maestoso.4/4拍子。変イ長調で勇壮に始めの二節が歌われる。ここは短い序の部分で和声もT度とX度だけしか出てこない。武人らしく勇敢だがやや単純なキャラクターを表しているのだろうか。曲全体との関連付けとしては始めに表れる同音反復のリズム(譜例9)があげられる。完全終止して変ニ長調で主部のAllegro leggiero.6/8拍子に入る。



 始めにピアノの高音域で表れる音型は森の妖精(エルフェン)の描写だ。(譜例10)ハーラルトとその部下達の間を飛び回るように歌の音域の上下を時には高く、あるいは低く奏される。主部は始め、二節が一つの楽節として有節的に進んで行く。(第3,4節/第5,6節)メロディーが有節的に繰り返されることで聞き手はテキストの内容に集中させられるのと同時に呪文的な効果も少なからず生じる。第7節から9節は森のなかで一人になったハーラルトの悲しみの部分である。同音反復のリズム(譜例9参照)と変ロ短調が効果的に挟まれる。次の第10,11節でハーラルトも岩陰の湧き水のそばで眠りに落ちてしまう。ピアノが譜例10の音型で下降し、変ホ短調で終止することで描写する。そして変イ長調に戻りピアノが譜例9を6/8拍子で静かに弾きはじめるところ(譜例11)から曲の終結部(第12,13節)に入る。この部分は冒頭の再現と見て良いが、ナポリの六の和音や非和声音が挿入され、始めより音楽に陰影が加わっている。



5.Frau Twardowska(ツバドフスカ婦人)

 これも作品50の一連のポーランド語のテキストをドイツ語訳したもの。訳者はカール・フォン・ブランケンゼーでこれも変わらない。前述した作品と同様にドイツ語の歌詞の下にイタリックでポーランド語の歌詞が書かれ旋律もそれに合わせて若干異なってくる。題名は女性の名前だが主人公はその亭主で、内容は悪魔と契約した男の話だ。この場合ファウストと違って悪魔より人間の方が利口だった?と言う落ちになる。
 舞台はポーランドなのだろう、前奏のピアノ(譜例12)を始めとしてポーランド風のリズムが歌や伴奏の随所に表れる。長い話なので音楽も長くなり、それが曲全体のプロポーションにも影響していると言わざるをえないが、各場面での音楽的な語り口は巧みなので、聞き手を飽きさせない(多分)だろうと思う。




 Allegretto, non tanto.4/8拍子、主調はト長調。九小節の前奏(譜例12)を繰り返す形で歌が始まる。(譜例13)オクターブで跳躍するピアノの短いモチーフa(譜例14)が合の手のように挟まれる。悪魔が登場する(譜例15)前までをひと区切りとみると、譜例13の楽句がロンド主題のように二度表れる。序の部分である。悪魔の登場から主人公(ツバドフスキー)と悪魔の駆け引きが始まる。悪魔が攻勢にでてくると譜例14の矢印で示した16分音符のトレモロが上行して動き出す。動機bもリズムが拡大され威圧感を増してくる。形勢不利とみて逃げようとする主人公をモチーフaのディミヌエンドが描写する。(譜例16)襟首をつかんで逃がすまいとする悪魔、窮地に立った主人公。この場面は2/3erという拍子記号(譜例16)が書かれた実態は6/8拍子の音楽で描かれる。bの悪魔の動機、aのモチーフが6/8拍子に変形されて表れる。



 何とか攻勢にでようとする主人公の姿が、譜例13のテーマが強引な4/8拍子への転換とト長調への転調で表れることで表現される。悪魔に無理難題の要求を押し付け、悪魔はついに悲鳴を上げる。(譜例18)ピアノがディミヌエンドしてDo音でフェルマータになり、次のヘ長調6/8拍子へと転換する。



 Andantino giojocoso, con espressione giusta.話はまだ最後の落ちが残っている。ツバドフスキー氏の妻がどんな女性だったかは聞き手の想像にまかせよう。ただ悪魔は一目見て、ほうほうの体で逃げてしまった。この部分は曲の最後、2/4拍子に戻りニ短調から一気にト長調へ転調する部分で表現されト長調で曲は終わる。悪魔とツバドフスキー、最後はどちらが幸せだったのだろうか?

6.Der Gott und die Bajadere(神と娼婦)作品45の2

 ゲーテによるインド伝説、全九節のテキスト。題材はインドだが、音楽からはインド風なものは感じられない。もともと当時のヨーロッパの音楽家達には東洋に対するあこがれはあったかもしれないが、具体的なイメージは無かったと考えるのが妥当だろう。楽譜からだけみれば他のレーヴェのバラードと特に変わっている点は無い。



 主調はハ長調。Maestoso.4/4拍子で始まる。冒頭属音から4度の跳躍で始まる音形(譜例19)はレーヴェが、絶対的なものや人間の意志を超えた抗いがたい事象にたいして結構多用しているパターンのように思える。学者や研究者のように厳密にリサーチをしているわけではないのでその点はお許し願いたい、ただ、ある程度の分量の作品をみて来たものとしての印象である。第4節までは各節がハ長調で始まり後半がイ短調という形で進行する。短調の部分以外にまとまりは無い、(譜例20)むしろここまでは後半部に向かって幾つかの要素が提示されている。テンポだけが流れとして徐々に速くなって行く。第5節から2/4拍子でイ長調に転調する。第6節の三行目で急に同主短調になることで客(地上に降りてきた神)の死を表す.ダイナミックスの変換と歌の音域の跳躍で娘(娼婦)の心の動揺と悲しみを表現し、やがて読経と弔いの歌が聞こえてくる。(譜例21)このq iqq iqという葬列のリズムがオスティナートのようにピアノで弾き続けられるうえで、物語は進んで行き、娘が焔に身を投げるところ(譜例22)でAllegro.4/4拍子になり、ハ長調に戻り、ピアノの譜例21のリズムの上で、二人が天上へ昇る情景を歌い上げて曲は終わる。








7.Ballade vom vertriebenen und zurükkeherenden Grafen
 (伯爵の追放と帰還のバラード)作品44の1

 これも全十一節のゲーテのバラード。導入部はニ短調Allegretto.12/16拍子、で始まる。第1節の最終行の後に、ピアノの短2度とオクターブの跳躍が特徴的な音形a(譜例23)が続く、この各節の終わりがピアノの音形aで終止する形は第6節まで変わらない。第2節から第6節までが主部で、曲は有節的に進行する。ここからニ長調に転調。拍子もAndante nobile.6/8拍子になる。この部分(主部)は5回同じ楽節を聞かなければならない。歌詞が解らない場合、音楽的には中々辛いものがある。基本的にこの作曲家のスタンスでもあるのだが、この時期のレーヴェは音楽的なプロポーションを犠牲にしてもテキストの文学的な内容の再現にウエイトを置こうとする意志をより強く感じる。そう、とりわけ偉大なるゲーテにたいしては・・・


 第7節に入って音楽は動き出す。ドミナント進行で徐々に転調をしはじめ、ロ短調でAllegro furioso.4/4拍子に突入する。(譜例24)曲中最も劇的な部分に入る。ピアノの低音の上行する音階に急き立てられるように転調を重ね、第9節の終わり近くで頂点に達し一気に収束し、調的には定まらないまま第10節(譜例25)にはいる。




 拍子がTempo d'andante.6/8拍子になり、終わりでニ長調が確立して最終節に入り、主部の音楽が喜ばしく再現され、最後にピアノに音型aが表れ物語が終わる。

8.Der Woywode(ヴォイヴォーデ)作品49の1

 これも作品50の一連の作品と同様、ポーランド語からドイツ語訳したテキストに作曲されている、訳者はカール・フォン・ブランケンゼー。オリジナルはアダム・ミッキーヴィスクのウクライナのバラードと書かれている。全体は6/8拍子を中間に挟んで三つの部分にわかれる。
 4/4拍子、Allegro.譜例26は歌い始めの部分だ。半音階で上行してホ短調の属音Siのオクターブ跳躍で終わるフレーズが二度表れる。q iq (譜例26のa)というリズムの単位が作品の最小限の核となる。また曲の冒頭からクロマティックな和声進行が続き調(ホ短調)がなかなか確立されないためとピアノの絶え間ない三連音の連打が不安感、焦燥感をかもし出す。譜例27の装飾音の付いたシンコペーションのリズムが後半で発展して展開される。

 テキストの18行目「装填済みの猟銃を!」でピアノと歌のユニゾンでホ短調が確立された後、次のハ長調の場面に移行する。この転調した部分から歌が旋律的な動きを持ちはじめ、伴奏部の音符の音価も大きくなり雰囲気が変わるが、徐々にバスが半音階で下降しながら転調を始める。中間部の6/8拍子、変ホ長調へ向かう転調はエンハモーニックを使ったなかなか興味深いものだ。(譜例28)
 6/8拍子、Un poco larghetto, dolente.の中間部は変ホ長調だが半音階で下降する動きは歌にもピアノにも(譜例29)潜在的に存在し、経過的に表れる変ホ短調、ハ短調の和声がこの先の悲劇的な結末を暗示する。4/4拍子、Adagioで譜例28の楽句が挟まれ、Allegro molto.の最終部に突入する。Sol音を保続音にした譜例27のシンコペーションの上で半音階で上行する音形が執拗に繰り返され、ホ短調で保続音がSi音になり、長い16分音符でSi音のドミナントペダルが続き最終行の「ヴォイヴォーデ殿の心臓に当たる」で主和音で終止する。(譜例30)






9.Der Todtentanz
(骸骨のダンス)作品44の3

 ゲーテのバラード、テキストは全七節。全体は三部に分かれる。第一部はModerato.6/8拍子、テキストの最初の二節がホ短調の属音Siで始まりイ短調のLaで終止する楽節で二度、有節的に繰り返される。この間ピアノは徐々に音型が細かくなり、イ短調のドミナントで次のPresto.につながって行く。2/4拍子の中間部は骸骨のダンスの場面(譜例31)でテキストの第3節から5節までにあたり、イ短調が支配する。ここも各節が有節的に進行し第5節の終わりから半音階的に転調し6/8拍子の第三部入る。ホ短調に戻り、最後の二節で歌はクロマティックでグロテスクな音型になり、ピアノの伴奏が次第に高音の細かい三連音で踊り狂うようになり、(譜例32)そのまま一気にホ短調で終止する。



10.Die drei Budrisse
(三人のブートリス)作品49の3

 アダム・ミッキーヴィスクによるリッタウのバラード。ポーランド語のテキストのドイツ語訳。訳者はカール・フォン・ブランケンゼー。他の作品と同様にオリジナルの歌詞がイタリックで併記されている。ブートリスの三人の息子それぞれについて語られる二つの6/8拍子の主要部分の前に、4/4拍子の導入部が付けられて全体は四部分で構成され、ている。有機的な構成というより、様式的に段取りを踏んで書かれている。
 4/4拍子、Vivace.ホ長調で曲が始まる。動機aで始まる勇壮な旋律(譜例33)は主和音のファンファーレ(譜例34のb)を伴う間奏を挟んで三度繰り返される。また属音Siでの太鼓の連打のようなリズム形c(譜例35)も提示される。最初に手品のタネを明かしてしまうようだが、この「3」という数が曲をまとめる手段になっているようだ。



 ホ長調で終止して6/8拍子の主要部に入る。テンポはGiojoso, un poco comodo.ブートリスが三人の息子それぞれに語りかける三つの部分とブートリスの回顧の四部で構成されている。三人の息子達へは同じ旋律(譜例36)での語りかけられる。調性だけが長男から順にロ長調、ハ長調、ホ長調と変化する。イ長調に転調し主人公が死んだ妻を回顧する旋律dがピアノの間奏で二度表れる。(譜例37)調はそのままで4/4拍子、Lent.になり、譜例36の旋律で戦場に行った息子達を思う心境が歌われ、嬰ハ短調で半終止する。




 6/8拍子、Vivace.でフォルティッシモのファンファーレが鳴り(譜例38)息子達が帰還する。この最後の部分も長男からロ長調、ハ長調、ホ長調とここでは各調で譜例10eのファンファーレに続いて動機aが(譜例39)歌われ、ピアノの間奏の旋律dでつながれて次の調に移る。最後はピアノが旋律dとbを結合させて曲を閉じる。(譜例40h)






11.Das Switesmädchen(スウィートの乙女)作品51

 アダム・ミッキーヴィスクのバラード。訳者は同じくカール・フォン・ブランケンゼー。作曲者によってポーゼンのW.ヤンゼン氏に捧げられている。長大なバラード(演奏時間はどのくらいかかるのだろう?)の全体を曲の進行に従って眺めてみよう。

【A(6/8拍子)|B(2/4拍子)|C(6/8拍子)|D(4/4拍子)|E(12/8拍子)|F(4/4拍子)|G(9/8拍子)|H(6/8拍子)|Dの再現|I(6/8拍子)|Fの再現|Aの再現(Coda)】

 AからIまでの八つのセクションが十二の部分に分かれて進行する。導入部のAがコーダとして再現して曲は終わるが構造的な統一感は無く、物語の流れに従って場面が変わるように曲が付けられている。次に曲の進行に沿って作業を進めよう。
[A]6/8拍子、Alegretto grazioso.前奏のピアノ(譜例41)の八分音符のリズムaは曲全体に様々な形をとって表れる。調はイ短調、譜例42のピアノ右手のメロディーで始まる楽節が三度有節的に歌われ、それぞれの終わりにピアノの装飾的な楽句(譜例42)が挟まれる。次にハ長調で譜例43の楽節が二度繰り返され、これもピアノの楽句が後に続き最後はヘ長調のドミナントで[B]に移行する。[B]2/4拍子、Vivace.と[C]6/8拍子、Amoroso.は経過的な部分で、所々にリズムaが点在する。[C]の後半でピアノがニ短調のドミナントを弾き高音の属音Laのフェルマータで[D]に突入する。



 4/4拍子、Allegro con fouco.(譜例44)ここから音楽(物語)が展開して行く主要な部分になる。ニ短調、ホ短調と転調しハ長調で[E]の12/8拍子(L'istesso tempo)に入る。aのリズムが絶え間なく展開される。[E]に入ってからピアノが分散和音の伴奏に変化するところからヘ長調、イ短調と転調して、4/4拍子、イ長調で[F]に入る。短い部分だが同じ音形(十六分音符)の上(または下)で和声を変化させて行く手法はこの時期のレーヴェが他の作品でも多用している特徴的なものだ。(譜例45)調性はイ長調のままで、9/8拍子でAndantino molto dolce.の[G]に入る。ここが音楽的に一番長く(若者が誘惑されるところ)、ABAの三部形式になっている中間部はヘ長調に調号が変わってリズムaが主体になる。イ短調のドミナントからAに戻る。



 
 Piu moto vivace.6/8拍子で[H]の部分に入る。後半イ短調で冒頭の音楽(譜例41)が一瞬再現され、4/4拍子、ニ短調で[D]のAllegro con fouco.(譜例44)が再現される。娘が誓いを破ったことを詰問するところだ。ニ短調、ホ短調、嬰へ短調と転調し、6/8拍子で、調的にはイ短調で短く[I]が挟まれ、4/4拍子で[F](譜例45)が拡大し、イ短調で[A]の部分に回帰して終わる。

12.Esther (エスター)作品52

 バラード形式の連歌。L. ギーゼブレヒトの詩による。五つの曲それぞれには詩の1行目がタイトルとして書かれている。対訳から、ポーランドに移住したユダヤ民族の悲劇の歴史を「エスター」というユダヤの美しい娘を主人公として、象徴的に描いている話のように理解しだ。故郷を失った民族の悲劇は当時でも文学的な主題であったろうが、現在も人類はこれを解決出来ないでいる。本当は歴史の知識・教養が無いのでそんなに大きなことは言えないのだが、少し前にみた映画「戦場のピアニスト」のことや最近の「イラク戦争」を思い出してしまった。

I "Wie früh das enge Prörtchen knarre"(朝早く小さな門で音がする)
 
 Allegretto.3/4拍子の前半部と、4/4拍子の後半部の二部に分かれる。前奏で動機aが提示される。(譜例46)3/4拍子の前半部は主人公へ求愛するポーランドの貴族(国王?)のことが歌われる。イ短調で上行し下降する音階の旋律(譜例46)が曲の暗い雰囲気を暗示する。続いて動機aが変奏されホ長調で求愛の言葉が歌われる。(譜例47)ここはポーランド風な曲調が与えられているような気がする。これが二度繰り返されてハ長調に転調して後半4/4拍子に入る。


 ここから自信を犠牲にしてユダヤの民のために苦難に立ち向かおうとするエスターの決意が歌われる。ピアノが動機bを繰り返しながら転調しイ短調にで歌が始まる。(譜例48)下降する音階で主人公の決意が歌われ(譜例49、動機c)ピアノの後奏が動機bを繰り返して終わる。




II "Der König auf dem gold'nen Stuhle"
(黄金の座の王がおまえを謁見)

 ヘ長調の下降する音階で曲は始まる。4/4拍子、Andante grave, alla marcia.動機cから発展したピアノの激しい音型(譜例50)が主人公の怒りを表す。そしてAllegro, con molta agitazione.で主部に入り、ヘ短調で神(イスラエルの)への怒りが歌われる。(譜例51)並行長調の変イ長調と交互に繰り返されながら。伴奏の音形が三連音符まで細かくなりフォルティッシモからピアノが一気に下降して終わる。主要な音型は一曲めの動機cから展開されている。




III "Nun auf dem fremden Boden"
(今や異国の地に)

 二部に分かれる。前半部、Con moto grandioso.4/4拍子で始まる。歌の旋律部は明らかに長調(ヘ長調というよりハ長調)なのだが、伴奏は始めニ短調の和声が付けられ、(譜例52)並行長調と短調の間を行き来しながら、徐々にニ短調に収斂して行く。これによって異国の地で栄えるイスラエルの民に忍び寄る悲劇を暗示的に表現しようとしている。ピアノの間奏でニ短調が確立し、Allegro agitato.の後半部に入る。主和音の連打の上でDo#の倚音が特徴的な音型で始まり、すぐに三連音の速い伴奏形になって動機cの拡大形で息子を奪われた母の悲しみが歌われる。(譜例53)曲はピアノの後奏の変格終止の長いカデンツで終わる。





IV "Spielt, Mägdlein, unter eurer Weide"
(娘たち、ここの草地で遊びなさい)

 四部に分けられる。2/4拍子、Andantino.イ長調で始まる。この部分はABAの三部形式で終わり近くテキストの9行目、わが子の死が告げられる場面でピアノの和音のリズム(譜例54)が繰り返されるなか、嬰へ短調に転調し属音のフェルマータで半終止する。4/4拍子、Maestoso.付点八分音符の厳粛なリズムに変化し、(譜例55)そのうえでイ長調から同主短調へ徐々に移行してゆく。




 Andante.で弔いの鐘の音が響く。(譜例56)調号はイ長調のままだが響きはイ短調でPiu moto.で譜例55の付点のリズムが今度は速度を速めて表れ、第1曲目の冒頭がフォルテで再現され、テキストの最後の二行が歌われる。


V "Wie wohnst du in des Reiches Städten"
(イスラエルよ、何故あなたは)
 
 曲集全体のエピローグである。3/4拍子、Andante espressivo.イ長調の下降する音階にのって歌が始まる。(譜例57)第1曲目では上行する音階の動機aが中心だったが、ここでは下降する旋律の動きが穏やかな雰囲気を形成している。テキストの12行目からイ短調になり、主人公の悲しみが繰り返される音形(譜例58)で歌われる。ピアノの後奏がそれを静かに受け継いで終わる。






©堀越 隆一


カール・レェーヴェの世界第14回
2003.11.28


作品56の三つのバラード

 作品56の三つの説話的なバラードは、J.N.フォーグルのテキストによる。それぞれが異なる題材によっているのだが、物語の水脈は底の部分で繋がっているような気がする。三曲ともに「ドレスデンの友人判事補ユストゥス・ギュンツ氏に捧ぐ」という但し書きがつけられている。

1.Heinrichi der Vogler.(鳥を捕るハインリヒ)作品56の1

 4/8拍子、Andante comodo.ではじまり、話の進行にしたがって、騎馬の一隊が出現するところから6/8拍子、Allegro.になるという二つの部分で構成され、最後(テキストの最後の四行)に曲の冒頭の部分(4/8拍子、Tempo primo,con espressone)がコーダとして再現されて終わる。主調はホ長調。構成としては曲の始まりの音形a(譜例1)が主人公ハインリヒの動機になって曲をまとめている。



2.Der Gesang.(歌)作品56の2

 主要部分は三つに分けられ、最後にコーダ(この曲でもテキストの最後の四行)としてはじめの部分が再現されて終わる。3/4拍子、Moderato.のテンポは曲全体を通じて変わらない。そしてiiiiiqのリズムで連打されるピアノの響き(譜例2)が曲全体を支配する。歌もこのリズムに支配され常に上拍部から同音でeeeと歌い出す。この形に変化は無く旋律に定型的な様式感を与えている。



 物語の進行に伴って歌、伴奏ともに音型が細かく装飾的に変奏される形で曲は進行する。主調はイ長調。転調を経て中間部で下属調のニ長調になり創造主が現れる。歌、伴奏ともに変奏が進んで第三部で主調に戻る。様々な鳥達が集まる描写がピアノの細かな音形で描写され(譜例3)発展した後、最後に譜例2の伴奏形が回帰して長い変則的なサブドミナント終止で曲が終わる。



3.Urgrossvaters Gessellschaft.(ひいおじいさんのお友達)作品56の3

 第一部は4/4拍子、Moderato.ト短調で始まる。歌(語り)とピアノが対話をしながら物語を進めてゆく。レーヴェのバラードに一番典型的にみられるスタイルだ。半終止して次の12/8拍子の中間部に移行する。この部分はテキストで言うと妖精が現れるところで、現実から老人の内面の世界への以降を表現するようにト長調(同主長調)のピアノの長い間奏(譜例4)から始まる。ここでもピアノと歌との対話で音楽は進んでゆく。



 第一部の再現は家族が歳の市のダンスから家に帰ってくるところからだ。ト短調で簡潔にまとめらていれる。そしてテキストの最後の五行の部分がコーダに相当し、ト長調で老人の死を物語り、長調のままで曲は終わる。

 作品56の三曲を最後まで観てくると、三部構成で最後にコーダがつくと言うフォルムが全部に共通していることに気がつく。これはむしろテキストの構成からきた統一性だと考えられる。今まで折に触れて言及してきたが、この作曲家の姿勢は、対象となるテキスト自体の文学的なモチベーションを如何に忠実に音楽化するかと言うことを自らの創作の課題にしている。ある意味でその姿勢は終生変わらなかった。ただ年を重ねるごとにその中での表現技術は少しづつ洗練されてきているように思える。これは個々の作品を観ているだけではなかなか見えにくいが、こうして全作品を年代順に辿ってゆくとよく分かり、なかなか興味深い。

4.Die Schlüsselblume.(桜草)作品49の2

 アダム・ミツキエヴィッチのバラード、カール・フォン・ブランケンゼーによるドイツ語訳のサブタイトルがつく。
 外国語を日本語に訳すのも、音楽を文章で表現するのもどちらもなかなか難しい作業だ。とくに通常日本語に無い発音の言葉はどこかで決断して当てはめなければならない。この詩人は前回にアダム・ミッキーヴィスクと表記されていた詩人と同一人物だが、これが決定稿になるのだろう。また今回は詳細な注釈を対訳と一緒に頂いて、詩人の背景や、テキスト自体の内容が相当明瞭に理解できた。語学に弱い筆者としては大変にありがたかった、ここに謝意を記しておきたい。この曲の構成もテキストの構成に従っているので、テキストの内容については訳者の注をご覧頂きたい。また前回5月の「カール・レーヴェの世界」で取り上げられた一連の作品と同様に歌詞はドイツ語のテキストの下にイタリックで原詩のポーランド語が並記されている。

 6/8拍子、Allegretto grazioso.全体は五つの部分に分かれる。テキストの内容どおり、音楽も詩人と花の対話で物語が進行する。花の部分(前奏と第1連を含む)の調性はヘ長調。この部分の旋律は有節的でほとんど変化はない。対して詩人の部分はハ長調とイ短調の間を揺れ動き、作者(詩人)の心の動きを描写して、徐々に短調の方に重心が置かれてゆく。(譜例5)




作品59の三つのバラード

 ゲーテのテキストによる三つのバラードについて、これも今回は訳者の詳細な注のおかげで、随分と興味深く作業が進められた。それぞれに創作時期と背景の異なる三つの詩から出来ているが、そのセレクトの仕方にレーヴェという人の文学的な嗜好と教養の深さ、そしてこの詩人(ゲーテ)に対する彼の傾倒の仕方が見て取れる。三曲ともに質の高い良いバラードに仕上がっている。

5.Wirkung in die Ferne.
(遠隔作用)作品59の1

 6/8拍子、Allegretto giojoso con grazia.イ長調。全体は二部に分けられる。前半テキストの1〜3連は 前奏のピアノで提示される五小節のフレーズが間奏として(譜例6のa)物語が進行する。くちづけの後ピアノのフェルマータを挿んで後半部に入る。後半部は間奏を挿まずに各連が切れ目なく歌われ、コーダでピアノがaの間奏を再現して曲は終わる。各連は同じ歌い出しb(譜例6)で始まり、有節的にほぼ同じ骨組みでまとめられている。各連での転調(移旋を含む)の動きが物語の推移を的確に描写している。

(附記)
 ついでに書いておくと、今回訳者の方の注を拝見して、この「連」という単語を初めて知った。今までは有節歌曲という音楽用語があるくらいだからという判断で、詩の区分けは何でも節でまとめてきたがこれからは使い分けが出来る場合はこの言葉も使用させてもらうことにする。まったく、大して知識も無いのにこうやって解説を書いているのだから冷や汗ものだが、続けているとこうして色々と勉強が出来てありがたい。



6.Der Sänger.
(歌びと)作品59の2

 Vivace.4/4拍子のヘ長調(譜例7a)とUn poco adagio,nobile mosso.6/8拍子の変ロ長調(同b)の二つの部分が急・緩・急・緩と交互に繰り返され、コーダに急の部分が再現され曲を終える。冒頭(譜例7a)の上行する音階と副三和音のドミナントで進行する和声が主人公の信念、意志の強さをあらわし、一転して緩の部分では、ピアノのアルペジオ(譜例8)が歌びとの奏でる楽器(たて琴?)を描写して、その佇まいを描写する。比較的、短いバラードだが全体に無駄な部分がなく緊密な構成でまとめらている。




7.Der Schatzgräber.(宝掘り)作品59の3

 導入部はLento.4/4拍子のイ短調だが、ピアノの前奏の間は調性が見えにくく、歌が入ってくるところで確立され、第1連の5行目でAllegroの主部に入る。(譜例9)
 主部は三つの部分に分かれる。第1部では第2連の宝捜しのために魂を売り渡す場面が描写される。ピアノの絶え間ない三連音の伴奏(譜例9)を背景に歌は長7度の跳躍する音程で始まり、低いMiの音から半音階で上行する所からテキストの第2連に入る。調性は基本的にホ短調で推移し後半でイ短調に転調する。第3連の前でピアノの間奏がqで嬰ハ短調の属音Sol♯を連打する所から第2部に入る。(譜例10)このあと嬰ハ短調からホ長調へ転調するなかで「光り輝く飲み物を持った男の子」の出現が歌われる。



Un poco meno allegro.ピアノのメロディックな間奏(譜例11)を前後に置く第3部から曲想は、物語を語る部分からより音楽的な表現に重心が移行し密度が高くなり、そのままイ長調のAllegro nobile.6/8拍子の長いコーダに入る。下降する音形と上行する音形が交互に和声を変化させ、(譜例12)最後にピアノの後奏がイ長調のサブドミナント終止で曲を締めくくる。




8.Fridericus Rex.
(フリードリヒ大王)作品61の1

 ヴィリバルト・アレクシスのバラード。ABAの三部形式で、テキストが四行づつ有節的に繰り返される形で進行するシンプルなもの。最初のAとBはそれぞれ同じ旋律が四回づつ歌われ、(譜例13参照)ABAの最後のAではテキストの終わりの四行が歌われて終わる。主調はホ長調。Majestätisch.4/4拍子で始まるAの部分は戦場に向かうフリードリヒ大王の姿が軍楽調の伴奏で語られる。有節的な同じメロディーの繰り返しが荘厳さのなかに幾分、戯画化された効果を与え、同時にこの単純なスタイルが昔話のような寓話化された印象も与える。



 中間部のBでイ長調に転調。出征する兵士が残る家族(妻?)に語る。楽句の繰り返しの間に兵士の集合を促すラッパのような間奏が挟まれる。(譜例14)最後に主調でAが再現されて終わる。




9.General Schwerin.
(シュヴェリーン将軍)作品61の2

 前作の歌詞にも登場したフリードリヒ大王の部下シュヴェリーン将軍の死を嘆くバラード。テキスト冒頭と最後の三行がバラードの導入部とコーダとなる以外は、10小節のメロディー(譜例15)で各連が歌われる単純な有節形式で書かれている。譜例15のaが曲全体の主要な音形として使われ、曲の導入部とコーダの部分もこの音形aが主要な素材となっている。また各連の間に挟まれる短い間奏も音形aで出来ている。(譜例16)



作品62の二つの歌曲集

 作品62の十二の歌曲はリュッケルトの詩をテキストにして、第T、第Uの二つの歌曲集としてまとめられている。全曲に渡ってピアノに大きくウエイトの置かれた書法になっているのが特徴的だ。伴奏が単にメロディーへ和声をつけるという次元を越えて、曲のエモーショナルな起伏を和声の動きで細かく洗練された手法で表現している。当然というか、今までのレーヴェの作品群とは幾分変わった、ロマン派的な雰囲気を持っている。

10.a) Zeislein. (ひわ)作品62、H.Iの1

 第T歌曲集の1曲目、ト長調、Allegretto grazioso.6/8拍子。16小節、一部形式のメロディー(譜例17)に二節の詩がつけられた有節歌曲。終わりにピアノの後奏が付く。



11.b) Bescheidung. (つつましくあれ)作品62、H.Iの2

 変ホ長調、Adagio.3/4拍子。三節の詩による有節歌曲。形式は二部形式。ここで歌われている、彼女とは現実の女性ではなく、詩人(リュッケルト)の創作に向かう心構えをを歌っているように読めたのだが、なぜかこの曲が一番レーヴェらしい。これも各節の終わりにピアノの後奏が付く。

12.c) „O süsse Mutter. (ねえ、やさしいお母さん)作品62、H.Iの3

 ト長調、Allegro.3/4拍子。五節の詩が歌われる。冒頭の旋律(譜例18)がロンド主題のように何回か現れ、全体は各節に沿って五つの部分で構成され、半終止して次の部分に進む形で進行するが有節的ではない。直線的に進んでゆく無窮動な動きが曲の本質になり、その中で4つの四分音符で出来ている譜例18の音形aが、各部分で音楽的にはリフレインのような効果を与えている。テキストの終わりにト短調のフェルマータで半終止した後、最後にPiü animato.で第1節がもう一度主調で再現されて終わる。



13.d) Süsses Begräbnis. (甘美な埋葬)作品62、H.Iの4

 ロ長調、Larghetto.9/8拍子。中間部が拡大されたABAの三部形式で書かれている。訳詩で言うと始めの二行の部分が、冒頭のAの部分で二度繰り返されるが、単なる繰り返しではなく、異なったメロディーと和声付けがされている。(譜例19)中間部Bで詩の主要部分が譜例19の音形aを骨組みとして歌われ、最後のAで、詩の終わりの二行(冒始めと同じ)がここも冒頭と異なる和声で、繰り返されずに一度歌われて終わる。曲全体は弱音のなかでピアノ伴奏が和声を微妙に変化させながら推移する。

追補)
楽譜の71ページの一小節目の一拍目、ピアノの右手の最低音のLaに臨時記号の§が抜けている。(譜例20参照)些細なことではあるが、念のために記しておく。



      イ ア ン ボス
14.e) Hinkende Jamben. (ぎくしゃくした弱強格)作品62、H.Iの5

 これも訳者の注を読まなければわからなかっただろう。「弱強格」というのも初めて聞く言葉で、日本語の詩では無い表現(実験的な詩人の作品にはあるのかもしれないが)だと思う。短い曲だが和声学の用語で言うところのアルモニー・サンコペ(和声進行を拍節からずらす、カデンツの解決を遅延させる)をうまく使うことで音楽的に「弱強格」を表現している(ように思う)。ト長調、Con commodezza.4/4拍子。

15.f) Irrlichter. (鬼火)作品62、H.Iの6

 Presto.3/8拍子。これも短い曲だが、早いテンポの中で楽想が目まぐるしく展開してゆく。イ長調ではじまり、不規則に挿入される八分休符のフェルマータをはさみながらロ長調・ハ長調・イ短調・イ長調と転調する。歌は語りの部分にウエイトが置かれ、曲の特徴はピアノが高音域で走り回る十六部音符の音形と、前述のフェルマータの中断によって鬼火の子どもたちのいたずらっぽい様子をうまく表現している部分にある。冒頭と曲の終わりにピアノで奏される二小節の楽句(譜例21)が鬼火の子どもの動機と言えるだろう。短いが充分特徴的で印象に残る。




16.g) Abendlied. (夕べの歌)作品62、H.IIの1

 第U歌曲集も六つの歌曲で構成されている。第1曲はヘ長調、4/4拍子の有節歌曲。
二部形式のメロディーでテキストが二節づつ四回繰り返して歌われる。コーダとして最後の第9節が幾分和声を変化させて、しかし同じ雰囲気は維持しながら終わる。

17.h) In der Kirche. (教会で)作品62、H.IIの2

 ト長調、Andantino innocentemente.4/2拍子。古い様式の楽曲のような書き方(譜例22)をしているが、意識的に切れ目無く書かれた旋律に付けられた和声進行は、機能和声を拡張したより新しい時代のものだ。ピアノの内声部も含めよく考えられて書き込まれている。




18.i) Ich und mein Gevatter. (おれと相棒)作品62、H.IIの3

 「つぐみ」と「しめ」という鳥の共生関係を擬人化した形で詩にしたテキストにレーヴェはコミカルな曲をつけている。イ長調、Commodo.4/4拍子。六節の詩が二節づつまとまった三部形式で書かれている。第一部と第三部では鳥の囀りを模した五連符の音形(譜例23のa)で始まるピアノの間奏が各節の間に挟まれて進行するが、中間部の3節と4節では省略されて切れ目なく繋がる。



19.k) Das Pfarrjüngferchen. (牧師のお嬢さん)作品62、H.IIの4

 ニ長調、Allegro grazioso.4/4拍子。四節のテキストによる、ほぼ有節的な歌曲。第3節の後半部でニ短調に転調する以外、各節は同じメロディーと伴奏が付けられ、全体ではABAの三部形式のように聞こえる。「牧師のお嬢さん」の姿が装飾音を伴ったピアノの伴奏でうまく描写されている。(譜例24)またお説教の間、いすの下で糸巻き棒を動かす様子もピアノが描写している。(第3節の後半、譜例25)
(附記)
 本題からそれるのだが、ついでに書いておく。この二つの歌曲集のタイトルの頭には始めからアルファベットの小文字で通し記号がつけられているのだが、この曲で(j)を飛び越して(k)になってしまっている。単なるミスなのか、一曲(j)に相当する作品を書いたが破棄したのか、何となく気になるところだ。







20.l) Kind und Mädchen.
(子どもと少女)作品62、H.IIの5

 ハ長調、Allegro giojoso.6/8拍子。七節のテキストの前半1〜3節、後半の4〜7節と
ピアノの間奏(譜例26)を挟んで大きく二つの部分に分かれる。この曲の特徴は楽句の和声的な終止をすぐ次の転調へ転換して行く推進力と、同じメロディーを和声を変えて
繰り返す(譜例27)ことから生じる速度感だ。ある意味でそれは、主人公(私/子ども/少女)の成長のプロセスを表現する方法として作者のとった選択だが、感覚的にも自然な流れを作っている。調的に比較的安定した前半部から、間奏の後、転調を繰り返して最後の第7節で変ニ長調から主調のハ長調に戻り、ドミナント上で歌が技巧的なカデンツを華麗に歌い。ピアノの後奏で終止する。





21.m) Die Blume der Ergebung. (従順な花)作品62、H.IIの6

 歌曲集の最後はイ短調、9/8拍子。曲想はAndantino, con molto amore.構成は極めてシンプルで同じ音形動機a(譜例28)がイ短調と並行長調のハ長調で繰り返されるメロディーに、伴奏もその調性の範囲内で充分に変化のある和声が付けられている。
全体は三部形式、第1節と最後の5節がイ短調、2〜4節が中間部でハ長調。簡潔なメロディーと和声の中で作品は自然な流れを形成している。二つの歌曲集、全十二曲を書き上げた成果が此処に現れているように感じた。




22.Der Sturm von Alhama. (アラマの嵐)作品54

 ヴィクトール・アイメ・フーバー作、アラビア詩によるスペインのバラード。プロイセン皇太子フリードリヒ・ヴィルヘルム殿下に捧ぐという副題がつく。
 Andante con moto.4/4拍子で始まるイ短調の序奏で主要な主題の元になる音形動機aがピアノで提示される。(譜例29)



 また、テキスト全23連の各連全ての最終行につけられているリフレイン、「ああこの悲しみよ! アラマよ!」[Wehe mir! Alhama!]をレーヴェは同じ音形で統一させることをせずに、曲の経過に沿って異なる形を与えている。(譜例30)逆にそれ以外の部分で各連は有節的に扱われている。



 冒頭の長い序奏部でテキストの最初の三連が歌われる。前述したように最後のリフレイン(ああこの悲しみよ!・・)の変化を除いて、音形aに基づいて有節的に三度同じメロディーが繰り返される。最後の半終止からホ長調に転調して、12/8拍子、Allegro.で主部に入る。ここでも、各連は動機aに基づく旋律で有節的(譜例31)に第4〜8連が歌われ、後半でイ短調に転調して4/8拍子、Andante,con moto e pesante, questo marcato.の部分にはいる。(譜例32)



 主部全体は四部に分かれ、ホ長調の「王」が中心となる12/8拍子の部分と「聖職者」を中心としたイ短調の4/8拍子の部分が交互に繰り返される形で進行する。
 この4/8拍子の部分では、新しい音形bに基づいたメロディーで有節的に第9〜12連が歌われる。ホ長調で12/8拍子の部分が戻ったところから曲は劇的な様相を帯び、(第13〜16連、王の怒り)歌にも新しい動きが出てくる。(譜例33)ここで王が聖職者に死刑を宣告する場面が曲全体のクライマックスになっている。



 再び4/8拍子に戻り、イ短調で動機bの音形で聖職者の嘆きが歌われる。ここでは最初に言及したリフレイン[Wehe mir! Alhama!]が、同じ形で三度繰り返される。(譜例34)
伴奏の和声進行をみるとイ短調の終止形(サブドミナント終止の拡大形)であることが分かり、ここが物語の最後であることが音楽的にも表現されている。
 最後の三つの連は物語のエピローグであり、調性は主調のイ短調を維持したまま、第21連がAllegro.12/8拍子で歌われ、次にAndante.4/8拍子で最後の二連が歌われる。




©堀越 隆一