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カール・レェーヴェの世界第9回

2001.4.26


Prinz Eugen, der edle Ritter
(気高い騎士オイゲン公)作品92

 全六節のテクストが二節づつ、ホ短調/ロ短調/ト長調の三つの部分に分かれた三部構成をとる、主調はホ短調。5/4という拍子の設定と周期的に置かれたフェルマータでレーヴェは拍節感を回避し語りの部分を強調している。 冒頭からくり返されるリズム (譜例1a)そして各節の間にリフレインのように挿入されるピアノの間奏(譜例1b)が曲全体に定型詩の韻(rhyme)のような効果を与えている。ト長調に転調した第三部(第5節と6節)では間奏は省略され、伴奏にオーケストラ的な厚みが加わってクライマックスを造ったのちに減衰。譜例1aのリズムの形だけがppでピアノの後奏に残って終る。

Der Nöck(ネック)作品129 の2

 全六節の詩の第2節から第4節までを中間部とする拡大された三部形式のバラード。ハ長調、Andante maestoso3/4拍子。ネック(水の精)の奏でるハープに載せて浮かび上がるように上行するメロディーで主部が始まる。第1節の終わりの行で9/8拍子になりメリスマ的にくり返され(譜例2)そのメロディーがピアノの低音部に受け継がれて中間部に移行する。中間部はホ長調、Allegretto6/8拍子で二つに別れる。前半はテクストの第2節と3節にあたり、ホ長調からホ短調へと同主調の転調を含む曲全体で一番ドラマティックな部分。後半はホ長調にもどり第4節のテクストが拡大されのリズムパターンでネックへの呼びかけがくり返される。 ハ長調に戻り3/4拍子の主部に回帰し、第5節、第6節がほぼ有節的に確保されたのちピアノの後奏が水底に沈むように下降して終わる。

Edward (エドヴァルト)作品1の1

 母親とエドヴァルトのダイアローグが緊迫度を徐々に高めて最後の叫び"O!"に収斂するテクストにレーヴェは構成的にも音楽的にも十二分に見合う劇的な曲を与えている。母と息子の互いの呼び交しと"O!"の音形と音程の変容が心理描写としてあるときは歎息、哀願になりまた最後には叫びとなって劇に厚みを持たせている。(譜例3a~c)変ホ短調、Agitato6/8拍子。ナポリ6度と半音階的な声部進行を多用する母と2/4拍子でディアトニックな音形で重く語る息子の対話で曲が始まる。第3節の後半「私は父を殺した」で4/4拍子でト短調に転調。音楽はドラマテッィクに動き始める。上行する歌の背景でピアノが[エドヴァルトの嘆き]とでも呼べそうな動機を提示する。(譜例3の下段┏ ┓)この動機が発展しながら変ホ長調に移り、終結部のクライマックスで変ホ短調に回帰。最後の"O!"を、歌い手は変ホ短調の属音Si♭で歌いピアノが主和音を弾いてドラマが幕を閉じる。 


Odinn's Meeres-Ritt
(海を行くオーディン)作品118

 前作(作品1)のほぼ40年後に書かれたバラード。歌と伴奏部の有機的な絡みあいはいっそう洗練され、ピアノの書法等は明らかに描写力表現力が増しているがレーヴェの基本的な姿勢は一貫している。冒頭の歌い始めのアウフタクトから跳躍して主音へ向かう4度の音程が曲全体の要所に置かれ、曲の歌い終わりもこの跳躍で終わる。(譜例4)詩の内容に従い全体は四つの部分に分けられる。(1)ホ短調、Andante maestoso4/4拍子で語り手が語りはじめる。ピアノの低音が短2度のトリルで北海の風の描写(譜例5)をし、歌とピアノがユニゾンで4度の音形(譜例4参照)で終止。(2)6/8拍子になり鍛冶屋とオーディンの対話が始まる。ピアノが背景で譜例5から派生した短2度の音形で絶えまなく風を描写する。(3)下降する和声の中、鍛冶屋がオーディンの馬に蹄鉄を打つ場面から異次元に入ってゆき属音ペダルSiのトレモロ上で最初のクライマックスが出現。(4)Allegro risoluto、4/4拍子で曲のコーダに入る。終わりは6/8拍子に変わり天空を疾駆してゆくオーディンと黒馬をピアノの分散和音の上行するアルペジオと高音でのトリルが描写する。
    
Findlay(フィンドレー)

 ホ短調、3/4拍子、三節の有節歌曲にピアノの後奏がつく。ピアノの後奏は間奏も兼ねている。ほぼ同形のリズムで四小節のフレーズが四回歌われる。フォルム自体はシンプルな民謡のスタイルだが、バランスのとれた洗練されたものを感じる。

Tomas der Reimer (詩人トム)作品135
       
 このバラードの魅力はこのリフレインにあると言い切っても、多分聞いた人なら納得してくれるのではないだろうか。一見すると単純で自然なメロディーに見えるが、これはピアノの鈴(Glöckelein)の音のような伴奏も含め、詩に対応して意識的に書かれているメロディーだ。そしてこのリフレインには、はじめて聞いた人にも、多分ある種のなつかしさを感じさせる力があると思う。主調は変ロ長調、Allegretto suave4/4拍子。やや長めのピアノの前奏から全四節の詩の流れに沿って音楽はゆるやかに変化してゆく。劇的なバラードでは極めて周到に構成的な態度で臨むこの作家がかなり無防備に曲を書き進めている。それでも変ロ長調からニ長調、属調のヘ長調(12/8拍子)へと転調し、第4節で原調に回帰する。第1節と第4節の最後の2行がリフレイン(譜例参照)になっていることでかろうじてフォルムの均衡が保たれている。

Erlkönig (魔王)作品1の3

 たとえばシューベルトの「魔王」を、天才がそのパワーと勢いで一気に押し切った作品だとすれば、レーヴェの「魔王」はゲーテの詩をその作品の内面までも含めて忠実に再現しようとした秀作と言えるのではないだろうか。あくまで二つの楽譜を見ての感想ではあるのだが・・・
 主調はト短調、Geshwind(はやく)9/8拍子。冒頭、前奏のpで始まる16分音符の絶えまないトレモロの律動が全曲にほぼ切れ目なく流れる。ピアノの低音部を受けて地の底から湧き出るように始まる歌の出だし(譜例6)はレーヴェの作品のなかでも見事なものの部類に入るだろう。テクストに沿って語り手が情景を語りはじめ、やがて父と息子の対話へとつながってゆく(第1〜2節)が抑制された雰囲気は持続される。6/8拍子になり、ピアノに弱音ペダルの指定がされト長調で魔王の誘惑の囁き(第3節)の場面にに入る。このあとト短調で父と息子、ト長調で魔王の世界と調の交代でドラマが進んでゆき第7節の後半で魔王の最後の台詞(譜例7)が短調に転調するのをきっかけに抑制が破られ、fで子供の悲鳴が曲中の最高音のSolで歌われ、ピアノが低音部で馬の疾走するリズム(譜例8)をffで打ち鳴らすなか終結へとなだれ込んでゆく。


Die Uhr (時計)作品123の3

 言葉を伴った音楽は、あえて乱暴に言えば、あくまで詩(文学)の枠内に留まる音楽と、詩に触発されて超えてゆく音楽とふたつに分けられる。どちらが芸術として価値があると言う問題ではないが、作家の資質、また個々のテクストに対する態度によって決まってくると思う。このバラードでは詩に寓意されるメッセージを伝えることが重要であり(とレーヴェは考えている)音楽はその手段となる。その範疇で、音楽的に充分な仕事がされている。
 テクストは五節、ヘ長調、Andante serioso6/8拍子。前奏から表れるというリズムと半音階で下降するバスが曲の雰囲気を決定する。(譜例9)全体は五つに分けられ、各節の終わりの行をピアノが模倣して次の部分に移る。第4節の後半でバスのFa音(ヘ長調の主音)のペダル上で変ロ短調の和声が表れそこからコーダに入り、第5節の4行目の"in der Ewigkeit!"がFaのペダル上で、減七の和声に支えられフェルマータ(の停止!)で歌われたのち、へ長調で終止する。

Wandrers Nachtlied Das Andere: "Der du von dem Himmel bist"
 (旅人の夜の歌 その二:「天より来たりて」) 作品9 H.氓フ3b

 ゲーテの詩による二つの『旅人の夜の歌』のうちの二曲目。二つの曲はそれぞれヘ長調とその並行調のニ短調で書かれている。楽譜上からはレェーヴェのこの短いテクストに対する深い思い入れが感じとれる。
 Adagio con intimissima espressione( 非常に親密な表現を持って) の標語がある。ニ短調、4/4 拍子。この曲の本質を一言でいえば「下降する意志」だろう。曲中の二小節間(譜例10)を除いて全て下降する音階に支配されていて、それは曲頭のピアノの低音と歌が1小節遅れて主音からの下降音階を提示すること(天より来たりて)(譜例11○印)からも、はっきりと示されている。一曲目と同様に詩の最後の二行が強調されそこに曲のポイントが置かれている。これは「旅人の夜の歌」二つを同じ構成でまとめたものと言うより、レェーヴェ自身の感情の自然な昂まりが二曲を同じような形にしてしまったと言うべきだろう。

Die wandelnde Glocke (鐘のお迎え)作品20の30

 これもテクストはゲーテ、日曜日に教会へ行かないと教会の鐘が追いかけてくるよ、という子供への教訓めいた話をユーモラスなバラードに仕上げている。ヘ長調で教会の鐘を模倣した音形(譜例12)が物語りのながれにつれて装飾的なピアノの伴奏によって擬人化され、様々に変奏してゆく。

Das Blumenopfer(花の捧げ物)

 ABABの複合二部形式の歌曲。ト短調、6/8 拍子Mäßig langsam の(A)と、ト長調、2/4 拍子Mäßig geschwindund sanft の(B)が二回繰り返される。同主調の転調は強いコントラストを伴うもので、作品2のバラードでも、たびたび出てきて劇的な効果を達成していたが、この曲の場合は全く同じ形ABが二回繰り返される冗長さを緩和させる以上の意味合いは考えにくい。詩の内容からもこの転調はコントラストが強すぎると思う。

"Seit ich ihn gesehen"(「あの方を一目見てから」)作品60の1

 作品60の歌曲集「女の愛」Frauenliebe の第1曲目。テクストはシューマンの歌曲集「女の愛と生涯」と同じシャミッソーの連作詩。全音版「レーヴェ歌曲集」の佐藤征一郎さんの解説によるとレーヴェはテクスト全文にいっさい手を加えずに作曲している。
 イ長調、Andantino espressivo6/8拍子ピアノのと続く和音の連打(譜例13)のリズムはこの歌曲集全体にあらわれる。リズム動機といえる程の特徴はもっていないが、曲集全体のトーン(雰囲気)を形成する役割を果たしている。詩はほぼ有節的に扱われ2節目の最後の行が繰り返され、そこが曲のポイントになっている。転調せずに近親調の借用和音を多用しながら色彩的に進行する和声はロマン派の歌曲の特長をよくあらわしている。

"Helft mir ihr Schwestern!"(「手伝って、妹たち」)作品60の5

 歌曲集の第5曲目、Allegretto grazioso12/8拍子。主調はハ長調。第1節から4節までほぼ有節的に並行調のイ短調ではじまりハ長調へ移行するメロディーは、第5節で短調は経過するがほぼハ長調に定着し、ピアノの長い後奏がそれを確認する。短調と長調の揺れ動きの中を上行する旋律線と和音の連打のリズムが主人公の結婚への期待と不安を表現している。

"Nun has du mir erstenSchmerz getan"
(「あなたからはじめて苦しみを受けました」)

 曲集の第8曲目。ニ短調、Andante lento, un poco grave4/4拍子。間にピアノの間奏を挟んで三節の詩は有節的に扱われる。歌い始めの音形のリズム(譜例14)にこの曲集全体を共通させているトーンが感じられる。

"Traum der eigen Tage"(「かけがえのない日々の夢」)

 Moderato6/8拍子。歌曲集の最後は第1曲目の同主短調のイ短調になっている。イ短調ではじまりハ長調で終わるメロディーが、第1節から第4節まで有節的に進行し、最後の第5節で歌はハ長調からはじまりイ短調で終止する。曲集の1曲目と同じ伴奏の和音のリズムが全体を支配し、調的な関係もともなって終曲としての完結した感じを与えている。


〔補遺〕この曲の全音版で楽譜の217ページの最後の小節、ピアノの左手のバスの2拍目は、Doのままでなく短2度下のSiに下がるべきだろう。

Die Lotosblume (蓮の花)作品9 H.氓フ1

 ハイネの詩による通作歌曲。作品9ではバラードでは無くリート( 物語ではない純粋詩)に曲を付けている作品が多い。その為いずれもバラード程の長さは無く短い曲が続く。嬰ト短調6/4拍子で全体は切れ目無く流れる三つの部分に分けられ中間部はイ長調となり主調嬰ト短調に挟まれる。非和声音(倚音)を多用する旋律と、和声的終止をさけた和声進行。借用和音の多用が曲に極めてロマン的な雰囲気を与えている。ピアノは始め旋律の和声的伴奏であったものが有機的に変容して後半以後、主旋律はピアノに移る。レェーヴェとしては珍しく音楽としてロマンティシズムを発揮しているが、これもテクストから要求されたものを実現したと考えることも出来る。

Wenn du wärst mein eigen.(もしも君が僕のものなら)作品9 H.「の1

 スコットランド民謡をL.Th. コーゼガルテンが独語訳したものがテクストとして使われている。第1節(譜例15)がリフレインのように扱われ、これをAとすると曲の構成はAB(2節)AC(3節)AD(4節)A'(コーダ)となる。主調はト長調。BCDの部分(2〜4節)は通作的に書かれそれぞれが主調と異なる調性が与えられている。テンポはAndante semplice からAllegro(4節)迄あがりコーダで始めのテンポに戻る。

Süßes Begräbnis(やさしいお弔い) 作品62 H.I の4

 ロ長調、Larghetto9/8拍子。中間部で嬰ト短調になるが、全体は長調のトーンが支配的。リアルな世界というより抒情的でファンタジックな情景を細やかなハーモニーで描いている。テクストはリュッケルト。

Lied der Desdemona
(デズデモーナの歌)作品9 H.IIの2

 デズデモーナの『柳の歌』として有名なシェークスピアの『オセロ』終幕近くの劇中歌。これが、所謂『劇伴』(戯曲の付随音楽)として書かれたのならば、どういう上演形態をとっていたのか興味のあるところだ。譜面上からだけ判断すればやはり独立した歌曲と言いきるのは難しい。楽譜には歌い手(デズデモーナ)の他に登場人物のセリフが入っているが、地のセリフは音楽の中に組み込まれている。ト短調6/8 拍子、二部形式のメロディーが有節的に歌われる。「柳よ、柳」のリフレイン(譜例16)の終わりがドミナントであることからメロディー自体は完結した感じを与えない。

Mein Ruh'ist hin (「やすらぎはいまはなく」) 作品9 H.IIIの2

 『ファウスト』第一部の中のグレートヒェンの歌う劇中歌、これをテクストにしてシューベルトも歌曲を書いている。(『糸を紡ぐグレートヒェン』) レェーヴェもこのテクストを戯曲から離して独立した歌曲として作曲しているようだ。第1節(譜例17)は曲の中では四回ロンド主題のようにリフレインとして表れる。またシューベルトと比べて見るとレェーヴェは舞台のシチュエーションを一切排除して(描写的にはならず)テクスト自体の内容のみを表現しょうとしている。調の動きは固定的で主調のロ短調6/8 の主部(1〜4 節) と同主調ロ長調12/8 の中間部(5〜8 節) でABAの三部形式になっている。なをレェーヴェは原詩にはある第7節の始めの2行を省略し、第1節を最後にもう一度付け加えている。

“Ach neige, du Schmerzenreiche! ”
(「ああ、お願いです、苦しみの聖母さま!」)作品9 H.ァの1

 ゲーテ『ファウスト』第1部から、グレートヒェンの独白に曲を付けている。ト短調 4/4拍子(Adagio) 。教会のオルガンを模倣した和声的な伴奏。 (譜例18)その下降するバスにのって、時に半音階的に、絶え間無く転調する和声が、グレートヒェンの、心の苦悩と動揺を表現する。その中心の動機になっているの歌のはじめの (譜例18のa)のリズム形である。

Sehnsucht (あこがれ )作品9 H.IIIの5
 レェーヴェにとってゲーテの詩に曲を付ける事は特別の事なのかもしれない。ゲーテのテクストで書かれた作品は、他の詩人の時より、一層の思い入れを常に感じてしまう。この曲の場合も例外ではない。ハ短調4/4 拍子、僅か34小節弱の小曲にしては和声の処理、ピアノ低音の倚音のこだわりかた(譜例19)等、それが成功しているかどうかは別にしてゲーテの12行のテクストの内容を完全に再現しょうとしている。

Ich denke dein" (「君を想う」) 作品9 H.IIIの1

 ゲーテのテクストによる恋唄、定型的な四節の詩に対し通作的な曲をつけている。この定型的なテクストに対してレェーヴェはかなり思い入れを込めてロマン的なアプローチを示している。調は変ホ長調を基調とするが転調によって作曲者の感情的な思い入れが表されている。
曲は各節に従って四つの部分に別れそれぞれが有機的に繋がってゆく。形式的には通作歌曲のスタイルで書かれテクストに対するレェーヴェのやや過度にも思える感情移入が興味深い。Adagio. 変ホ長調6/4 拍子でピアノの序奏が始まる(譜例20)。曲の流れはかなり即興的だがテクストのエモーションを忠実に再現する事に専念している。

Des Glockentürmers Töchterlein (鐘撞きの娘)作品112 A

 イ長調、Andantino3/4拍子。冒頭から鐘の響きがピアノパートと歌の旋律線に巧みに組み込まれている。テクストはリュッケルト。全体は六節の詩が二節づつABの二部形式にまとめられそれが三回繰り返される。(1,2節/3,4節/5,6節)ピアノの間奏にも鐘の音が模倣されている。(譜例21)

Cavatine für Tenor (テノールのためのカヴァティーネ)作品42の16

 変イ長調、Largo4/4拍子。まるでヘンデルのアリアが始まるかのようなピアノの序奏(譜例22)の後、テノールが大真面目にレチタティーヴォを歌い出し、Andante Largamente4/4拍子でカヴァティーネにはいる。カヴァティーネは変イ長調ではじまり変ニ長調の長いテノールのカデンツァで終止するかたちで二回繰り返される。歌詞の中身と音楽の荘重さの落差が面白い。ピアノの内声部もよく書き込まれてある。

Der Abschied

 「別れ」あるいは「別離」とでも訳すのだろうか。ピアノ伴奏付きの混声四部の合唱(重唱)で1817年作曲と記されている。8小節のフレーズがオブリガートを加えて何回かくり返されるだけの小品。ピアノ伴奏部もハーモニーをおさえているだけの単純なもの。何かの機会に、そこにいる人たち皆で演奏できるように書かれたものではないかと推測する。対訳が参照できないのでよくは解らないが、コンサートの終わりや催し物の最後に演奏するのには相応しい曲に思える。


堀越 隆一

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カール・レェーヴェの世界第10回

2001.12.24


作品15の六つの連作歌曲
で描かれているのは、寓話の世界だ。民話のなかに登場するような事物は全て寓意的な象徴として扱われている。全曲を通して、レーヴェはテクストの一見民話的な世界と、そのなかに潜んでいる影の部分や諧謔的な喩を音楽的にも表現しようとした工夫が伺える。

 Mädchen und Rose(少女とバラ)作品15-1

 2/4拍子の小さな三部形式。ヘ長調だが曲の終結部を含めて各部分がドミナント(属和音)で終止している。また素朴なメロディーにつけられた和声進行のところどころに付けられたクロマティックな経過音が、導入部として効果を与えている。

 Beim Tanze(踊り)作品15-2

 3/4拍子、冒頭のピアノのリズム(譜例1)に導かれて歌われる田舎風の素朴なニ長調のメロディーに二ケ所、強引に付けられた並行短調の和声が、この小さな曲のなかでテクストの雰囲気を効果的に表している。

 Überraschung(驚き)作品15-3

 2/4拍子。これも主調は同じくニ長調でト長調の部分を中間にはさんだ三つの部分で出来ている。素材はは単純なリズムに基づく二種類のフレーズだが、短いモテーフの繰り返しと調性の巧みな配置で作品に仕上がっている。結果として連作のなかでは一番構成のしっかりした重い曲になっている。

 Des Jünglings Segen
(若者の祝福)作品15-4

 3/4拍子、ニ短調だが一曲目とおなじくこれも曲の終止感は避けられ、属和音が各段落と曲の終わりに置かれている。(譜例2)
鳶と鷹のダイアローグは若者とその友人の象徴だろう。短いテクストのなかにレーヴェは充分すぎる程劇的表現を詰め込んでいる。

 Liebesliedchen(恋の歌)作品15-5

 3/8拍子、イ長調。聞き終わってみると、終わり直前に一ケ所を除き、歌とピアノが絶えまなくというリズムを反復しそれが曲の流れを形成していることに気付く。同主短調のイ短調が効果的に陰影を加えている。

 Kapitulation
(降参)作品15-6

 2/4拍子、変ロ長調。短い民謡的なフレーズは何度か属和音上のフェルマータと完全なPause(沈黙)で中断される。ダイナミクスの対比がこの幻想的な寓話に音楽的な奥行きを与えている。

作品14は旧約の世界の登場人物を題材をとっている。バイロン卿の詩をテレミンが独訳したものがテクストとして使われ、五つの曲はそれぞれが異なった様式で書かれている。編成もピアノ伴奏の歌曲だけでなく、アカペラ(無伴奏)の重唱の曲も入っている。曲集全体はサウル王を主要人物とする一つの物語として構成されているようだ。

 Saul und Samuel(サウルとサムエル)作品14-1

 Largamente maestoso4/4拍子、ホ短調。預言者を死者の墓から蘇らせようとするサウル。レーヴェがバラードで好んで取りあげる世界だ。歌はメロディックにならずに、跳躍する音程と同音の反復しながら徐々あがってゆく音型のなかで劇的に語り、ピアノの低音部で蠢く音型が背景となって全体に無気味な効果を与えている。

 Eliphas' Gesicht
(エリファの顔)作品14-2

 Andante serioso4/2拍子。ヒポフリギア調の旋法で(in modo hypophrygico)と書かれている。ピアノ伴奏の書式も中世の典礼聖歌の様式で書かれているが、旋律自体はそれに縛られず、むしろレーヴェの特徴がはっきりでている。曲は旋法の終止音ミで終わらずに不安定な感じで余韻を残す。

 Davids Harfe
(ダビデの竪琴)作品14-3

 4/4拍子、変ホ長調。アカペラの混声四重唱。二節のテクストが有節的に歌われる。全五曲の調性的な配置のなかで中で一番遠い長調が与えられている。間奏的な効果を与えている。

 Saul und Samuel
(サウル)作品14-4

 Vivace marziale.4/4拍子、ハ長調。サウル王の偉業を讃える三節の有節歌曲。行進曲風に太鼓のリズムをともなう軍楽隊を模倣したピアノ伴奏が付けられている。

 Jersalem's Zerstörung durch Titus
 (ティトゥスによるイェルサレムの破壊)作品14-5

 Allegro assai, con abbandono. 4/4拍子、主調は一曲目と同じホ短調。全体は二部に分けられ後半部は同主長調のホ長調ではじまり最後に主調に戻り短いピアノの後奏で終わる。テクストは五つの部分に分けられ各部がほぼ有節的に扱われ、というリズム形の連続のなかで旋律が歌われる曲が進行する。


Schottische Bilder
作品112
 クラリネットとピアノのための(für Klarinette und Klavier)三つの小品。レーヴェの器楽曲の楽譜は今回はじめて観させてもらった。各曲にタイトルが付いているところは、純粋な器楽というより、やはり標題音楽的な発想で書かれているのだろう。正確な訳がわからないので各曲は原題のみを記す。

 Die Jungfrau vom See
 Andantino. 3/8拍子、イ短調。曲の素材は、前奏の上行するピアノの分散和音の後クラリネットとピアノの対話の形で提示される動機a(譜例3)b(譜例4)の二つで出来ている。この動機が自由に転調しながら展開してゆく、幻想的な形式の無言歌と言えばよいのだろうか。コーダの前でイ短調に戻り、ピアノとクラリネットの短いカデンツが挿入されて終わる。

 Der Wanderer auf Bothwell-Castle
 Andantino espressivo. 4/4拍子、イ長調の自由な三部形式。中間部は経過的に転調しながらイ短調までゆき、主部でイ長調に回帰する。ピアノの絶えまない分散和音の伴奏が抒情的な雰囲気をかもし出している。

 Der Schottenclan
 Allegretto, alla Marcia. 2/4拍子、ハ長調の複合二部形式。民謡風のリズミックな数個の動機の単純な展開で出来ている。(譜例5/動機a~e)ピアノの前奏と続くクラリネットで動機a~cが提示され、第一部の後半で動機dとeが使われる。


作品22 H.の五つの歌曲では神(キリスト)にたいする。信仰の思いが歌われる。シンプルな形式をとりながらレーヴェらしい技巧的な工夫を随所に見せている。

 Wenn ich ihn nur harbe
(あの方さえいてくだされば)作品22 H.氓フ1
 
 3/4拍子、変イ長調の五節の有 節歌曲。テクストの内容からいって、賛美歌といってもかまわないのではないかと思う。所々に点在するクロマティックな和声進行、メロディーの最後を属和音で終わらせてからピアノの主和音で終止させるところがレーヴェらしいところだろうか。(譜例6)

 Wenn alle untreu werden(誰もが不実であろうとも)作品22 H.氓フ2

 Semplice. 4/4拍子、イ長調、四節の詩による有節歌曲。ABの小さな二部形式で出来ている。

 Der Hirten Lied
(牧人の歌)作品22 H.氓フ3

 Pastrale. 6/8拍子、ハ長調、三節の詩がABAの三部形式に分かれる。パストラーレのリズムのなかで、借用和音と半音階的な16分音符の音型が多用され、基本となるハ長調の調性に色彩感を与えている。歌もシンプルな旋律線をメリスマ的な音型で装飾している。


 Busslied
(悔悛歌)作品22 H.氓フ4

 Dolente(悲し気に) 3/4拍子、ホ短調。これも四節の詩による有節歌曲。コラール風な伴奏がピアノで付けらていれる。

 Gottest ist der Orient!
(東洋は神のもの)作品22 H.氓フ5

 同じ詩でテクストでたしかR.シューマンも作曲していたのではないかと思う。レーヴェはこのテクストの順序を若干変更して作曲している。Maestoso. 4/4拍子で輝かしく荘厳に始まる。主調はヘ長調だが、並行調のニ短調のドミナントが全曲を通して多用されている。(譜例7)原詩の8行目のアーメンの後に、同じメロディーで詩の代第2節が挿入され、コーダは第1節の13行目から節の終わりまでPiu vivaceで2/4拍子になり、クライマックスを形成した後、静かに終わる。

作品20の三つのバラードはゲーテのテクストによる。ここに登場するのは小人、魔法使い、歩く鐘等、どれもお伽話や昔話の世界の登場人物だ。

 Hochzeitlied
(祝婚歌)作品20-1
 
 全体は八つの部分に分かれ、それぞれに16節の詩の2節づつが当てられている。各部の終わりは原則的に歌とピアノのユニゾンの分散和音の動機b(譜例8)で終わり、間奏を挟んで次の部分に進む。
物語の導入部(第1〜2節)Vivace.4/4拍子、ホ長調。属音のアウフタクトから
主音に跳躍して始まる動機aは(譜例9)、多くのレーヴェの作品での常套的な始め方だが、ここでもそれがモティーフとして曲全体を統一する役割を果たす。

間奏を挟み、第2部(第3〜4節)はホ短調で荒れ果てた居城の雰囲気が描写され、動機bがホ短調でリズムを変えて歌われる。ピアノの間奏がaリズムで物語の世界へと場面を転換してゆく。
第3部(第4〜5節)は二つに分かれ、始めに伯爵の寝台の下で何かが蠢く様子がピアノの低音部で描写される。(譜例10)ハ長調4/8拍子になり小人が登場する(第5節)。動機bで締めくくられ短い間奏を挟み第4部(第5〜6節)に入る。ここから小人の宴会の描写がここから第7部(第13〜14節)まで延々と繰り広げられる。音型bの反行形が12/16拍子でギャロップのようなリズムで表れ(第4部、譜例11)音型は歌もピアノもさらに細分化し、高揚してゆく。その音楽的なテンションの持続力は並々ならぬものが有る。歌もピアノも頂点の高音域から一気にdiminuendoしてTempo primoでホ長調4/4拍子に回帰、終結部の第8部(第15〜16節)に戻る。物語は終わり宴の後んも余韻のなかで曲は音型bのユニゾンで締めくくられる。

 Der Zauberlehring(魔法使いの弟子)作品20-2

 管弦楽ではP.デュカの交響詩が有名(ディズニーのファンタジアでお馴染み)だ。このバラードは一言でえば、ハ長調の主部と変ニ長調(和声的に言えばハ長調のナポリの六に当たる)の部分の交替が曲の構成とドラマの要だと言い切ってしまってかまわないだろう。テクストの奇数節がハ長調の主部にあたり、偶数節が変ニ長調になる。主音ドから上行する音階aが主部の主題となる。(譜例12)一方変ニ長調部分はレ♭のオクターブの跳躍するモティーフb(譜例13)が特徴的だ。それぞれの音型が音楽の進行のなかで変化しながら。ドラマを形作ってゆく。最終節、魔法使いが帰宅し、呪文で全てを収める場面で曲は変ニ長調からハ長調の主調に戻り終止する。
各節の配分は下記のようになっている。

主部(ハ長調)
        
1   3   4   6   8   10   12  
  2   2   5   7   9   11   13

副部(変ニ長調)

 Die wandelnde Glocke(歩く鐘)作品20-3

 これもテクストはゲーテ、日曜日に教会へ行かないと教会の鐘が追いかけてくるよ、という子供への教訓めいた話をユーモラスなバラードに仕上げている。ヘ長調で教会の鐘を模倣した音形(譜例14)が物語りのながれにつれて装飾的なピアノの伴奏によって擬人化され、様々に変奏してゆく。


2001.12.24 堀越 隆一

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