カール・レェーヴェの世界第11回
2002.4.26
Die Gruft der Liebenden(恋人たちの霊廟)作品21
積み残しになった作品21の長大なバラード、テキストは前回のプログラムを参照してください。
4/4拍子、Andante maestoso, イ長調。ピアノの低音域の分散和音(譜例1)で長い導入部が始まる。テキストの始めの三節に相当し、物語の背景が語られる。導入部の各節はそれぞれドッペルドミナントから半終止(属和音)して次の節に進行する。第3節の終わりにピアノで弾かれるMi音(属音)のフェルマータで導入部が終わる。それを受けて同じ音を属音として同主調(イ短調)で歌とピアノがユニゾンで4度の跳躍でガルシア王の主題となる動機(譜例2)を歌い出すところからAllegroの主部に入る。


主部は物語の展開に添ってイ短調→ホ短調→イ長調の三つの部分に分かれる。ガルシア王の動機が始まりフェルマータのピカルディー3度で終止する部分と姫の悲しみを表す動機(譜例3)と減七の和音を多用した和声進行で半終止する部分が交互に繰り返され、ピアノの間奏でホ短調の部分に移行、ピアノの5度音程で角笛が響き、姫の悲しみの動機がホ短調で静かに奏され、姫の死が暗示される。

この部分ではまずピアノのホ短調の属音Siの単音で奏される同音の連打(譜例4)のリズムが徐々に和声づけされて細分化されることで姫の死と騎士の嘆きが描写される。(譜例4〜6)


ピアノのの伴奏の高まりのなかで転調し、イ長調でcon gran espressioneの部分に入る。ここでは歌が騎士の叶わぬ愛の告白を、姫の悲しみの動機をもとに大きく展開してゆく(譜例7)。

霊廟のなかでの二人の抱擁の個所でドッペルドミナントでピアノが高音域から分散和音で下降し、イ長調の主和音上で悲しみの動機の断片をもとに暗示的に二人の死が歌われる。低音のLa♭のトリルでガルシア王があらわれる。王の怒りはイ短調でピアノと歌のユニゾンにより歌われ、叩き付けるようなドミナントの和音で半終止する。この長いバラードのエピローグは冒頭のイ長調のピアノの導入部が再現されほぼ主音(La)のペダル音のうえで詩の最後の節が歌われる。
Fünf geistliche GesängeOp.22H.II(五つの宗教的歌曲)作品22第2分冊
1830年に作曲、編曲F.H.シュナイダーと書かれているので。曲の仕上がりのどこまでレーヴェが関わっていたかはわからない。強いていえば、伴奏パートがやや和声的な気がするが、作品のクオリティーは保たれている。各々の曲のテキストの作者は異なるが、テーマに添って楽曲の統一が計られている。
Nr.1 Werfet alle eure Sorgen auf ihn!
(お前の悩みはみんな神様にお任せすればいい)
六節の詩による有節歌曲。3/4拍子、Dolce、イ短調で二節の詩が三度繰り返される。曲は一部形式、音階で下降するフレーズ(譜例8)の音型が曲をまとめている。

Nr.2 Emgelsstimmen am Krankenbette. (病床に天使が)
4/4拍子、Consorante、ホ長調。二節の詩に添って曲は二つの部分にわかれ、後半部でメロディーの音価が長くなることで高揚感が与えられている。この曲と次のNr.3は迫りくる死という主題を共通したテーマにしている。
Nr.3 Der nahe Retter.(救い主は近くに)
三節の詩にそって三つの部分で出来ている。4/4拍子、Non troppo sostenuto、嬰ハ短調からホ長調へと転調し最後は嬰ハ短調の同主調である変イ長調で終わる。歌の旋律線からは第一部と三部はほぼ同じ音型でメロディーが進行しているが、前の曲とおなじように後半でメロディーの音価が長くなり、休止も挟まれて、死の平安が描写される。
Nr.2と同様に主題として死が扱われていることの共通性は、調は異なるが、それぞれの曲の始まりの音の動きが同一であることからも伺える。(譜例9)

Nr.4 "Wie grossist des Allmächt'gen Güte!"(万能の神の恵みは・・)
六節の詩による有節歌曲。3/4拍子、Andante、変ロ長調で神への感謝が二節の詩が三度繰り返し歌われる。全体は旋律、伴奏部もふくめてコラール風なスタイルで統一されている。経過的な和声は使われているが、調は変ロ長調のまま変化しない。
Die nächtliche Heerschau.(夜中の大閲兵式)作品23
戦死した兵士達がおこなう真夜中の閲兵式。司令官は皇帝ナポレオンの亡霊だ。レーヴェの好むホラー映画のようなおどろおどろしい死者の描写が管弦楽的なピアノ伴奏部がつけられ、グロテスクに描かれる。鼓手の叩くドラムの音(譜例10)に導かれて曲が始まる。

全体はテキストの進行に添って三つの部分にわかれている。始めはト短調、4/4拍子、Alla Marcia vivace。ドラムロールを模倣したピアノの低音部のトリル(譜例10)と蠢くような下降音型が無気味な背景を作っている。そこへ騎兵隊の亡霊が登場し(譜例11)閲兵式が始まる。変ロ長調になり、軍楽隊が行進し(譜例12)式典がクライマックスを向かえた頃、司令官の正体が明かされるところで曲はト短調のドミナントでフェルマータがおかれ、再びドラムのロールが遠ざかるように奏されるなかで曲は終止する。


Die Braut von Corinth..(コリントの花嫁)作品29
ゲーテのこれも長大なバラードに、レーヴェはテキストの原文を(多分)全部省略せずに作曲している。テーマは死者との結婚で当然主人公も最後には死を迎えて物語はおわる。基本的にレーヴェはテキストにあまり手を加えずに作曲を進める。文学作品のテーマ(主題)を忠実に音楽的に再現することがこの作曲家のモチベーションになっていると思える。
このバラードでも音楽的な構成は物語の進行に従って変わってゆく。全部で32節
もある長いテキストの始めの三節が導入部にあたる。4/4拍子、Moderatoで歌とピアノで曲が始まる。(譜例13)
曲全体の主調はト長調だが、導入部の第2節のあたりからすでにイ短調、ホ短調と短調の色合いが強くなり導入部の最後は解決されないホ短調の属和音がおかれる。これが属七の和音に解決されてホ短調で第4節の主部に入る。(譜例14)

ここから乙女が登場し物語は徐々に死者の世界に入って行く。その流れ導くように、第4節から第12節までの部分では、曲の背景でピアノが絶えまなくiiiqのリズム(譜例14の矢印)を奏で、若者の恋情のたかまりに呼応して音楽もイ短調と並行調のハ長調の間で高揚し13節からヘ長調に転調、ピアノの高音部に16分音符で装飾的な音型が加わり、歌は若者の情熱を広い音域を跳躍しながら一気に歌う。対比するように乙女はこの世では成就されない二人の運命を歌う。ピアノの内声の8分音符の動機(譜例15)でその悲しみが暗示的に表現され、イ短調、ニ短調の和声が借用的に使われ陰影を与える。

第16節で若者が乙女に求婚する場面で譜例15の8分音符の動機は強調され16分音符の音型繋がって、第18節でこの部分のクライマックスを迎えるまで続いてゆき、その勢いのまま12/8拍子、ヘ長調で第19節に入る。(譜例16)

第19から24節までは二人の婚礼の場面、ピアノの外声の2分音符の響きが「夜半の鐘」を模して真夜中の時刻を描写をしている。この長大なラブシーンの部分を歌は譜例16aの音型を音程、調を変えながら展開してゆく。ピアノがppで減七の和音をクロマティックに下降するところ(譜例17)から第25節に入り母親が登場する。

第27から28節で客人の寝室で二人を発見した怒りがPresttissimoのピアノの激しい動きで表される。第29節でようやくこのバラードの終結部にはいる。第29節と30節は徐々に速度を速めて行くが、完全に有節的に繰り返される。ニ短調の主和音のアルペジオが二分音符の周期で厳粛に奏される。最後の32節でト長調に戻り、伴奏部に冒頭の音型とリズムが再現され(譜例18)ト長調の主和音が高音域でppのなかに消えるようにしてこの長大なバラードは終わる。
作品30の15から二曲、どちらも宗教的な題材をテキストにした小曲。
"Der Heiland ist für uns gestorben."
(救い主は私たちのために死に給うた)
変イ長調、4/2拍子。二節の詩が二分形式で歌われる四声体のコラール。伴奏部は四声体のコラールがそのまま、歌はソプラノのパートに歌詞が付けられている。
"Heer, du bist unsre Zuflucht für und für!"
(主よ、あなたは永遠に私たちのすみか)
前の曲「救い主は私たちのために死に給うた」がそのまま、伴奏として使われ、その対旋律として歌の声部がつけられている。(譜例19)テキストは聖書からとられ、作曲技法的な試みであると同時に、小曲ながら二つのテキストの意味を重層的に重ねあわせようとしている。
「伝説が生きていた頃」というサブタイトルのついた作品33の三曲のバラード。
1) Jungfrau Lorenz(乙女ロレンツ)
森のなかで迷って一晩を過ごした少女が、無事に帰ってきて教会で神に感謝を捧げたというバラード。Allegro moderato assai e grazioso、4/4拍子、ホ長調。ピアノの前奏(譜例20)に乗って、少女の無邪気な独白が二分形式のメロディーで二度繰り返される。イ短調に転調し雰囲気が変わり少女が森のなかに入ったことがわかる。森のなかの生き物の描写なのだろうか小さなリズムモチーフa(譜例21)が点在する。


ppの静けさのなかで調性は短調と長調の間をゆれ動き道に迷ってしまった。(譜例22)

ホ短調で少女の不安な心と後悔が歌われ、日はどんどん暮れて夜になり森は無気味さを増し(イ短調に転調)乙女は疲れと恐怖で気を失うがこの部分はハ長調で終止し、夜明けを迎える。森は明るさを取り戻し小鳥達のさえずりがモチーフa展開で歌われる。乙女が小鹿に飛び乗り町に帰る部分で原調のホ長調に回帰する。曲の終わり、テキストの(コーダ)の部分で森の小鹿を思い出すように一瞬ハ長調が表れすぐにホ長調に戻り終わる。
2) Das heilige Haus in Loretto.(ロレットの聖家)
宗教的な題材のテキストを扱うときのレーヴェの態度は比較的ナイーブである。音楽的にもわりと見通しの良い構成をとることが多い。
6/8拍子、Andantino grazioso、イ長調。譜例23のテーマAがロンド主題のように表れ、その間にqjqqjqというリズムでテーマBが置かれる。全体の構図はピアノの前奏からテーマAがはじまりホ長調でテーマBになり嬰ハ短調に転調、そのままピアノの間奏に入り、ホ長調でテーマAになりロ長調に転調してテーマBがやや変化してあらわれるた後、主調のイ長調でAが再現される。再びピアノの間奏の間にホ長調に転調しBが再現しロ長調に転調。最後にイ長調でAにもどりコーダを迎える。

3) Des fremden Kindes heiliger Christ.
(他国から来た子どもとキリスト様)
対訳を読む限りでは、他国から来た子どもとは家のない孤児の婉曲な暗喩と読める。
四つの部分に分かれ、ピアノの前奏の左手の属音Laの修飾された動きa(譜例24)が曲全体の背景を形成するモチーフになっている。第一部はAllegro agitato4/4拍子、ニ短調でピアノの前奏が始まり、テキストの始めの第1〜4節がABAB二部形式で歌われ(譜例25)続いて第5〜8節の歌詞が有節的に繰り返される。

第二部で一瞬テンポが遅くなり(Piu lento)、子どものキリストへの祈りが賛美歌風に歌われる(第9節)が、すぐにAllegroにもどりヘ短調で譜例25のAの旋律第10節が歌われる。第三部でキリストが現われる。ヘ長調に転調、テンポも再び徐々に遅くなり(Andante e poco a poco adagio)一部形式のメロディーで第11節と12節が有節的に歌われる。第四部(Un poco meno allegro, dolce)で最後に子どもは神に召されて行く。ピアノの前奏がヘ長調に転調されてAの旋律が歌われる。長調ではあるが、同種短調のヘ短調から借用されたRe♭が歌と伴奏に陰影を与え、子どもの死を暗示して悲しみを誘う。
Nr.1 Der Grosse Christoph.(大男のクリストフ)作品34の1
異教徒の大男オフェルスが皇帝や、悪魔に使え各地を遍歴するが、最後には悔い改めてクリストフォルス(キリストを担う者)として天国に召されるという伝説詩。対訳のコピーだけでも約7ページ!これだけの長い物語をテキストの省略無しに一曲のバラードとしてまとめようとするのは、本当のことを言えば無謀なことだと思う。しかし今までも見てきたようにレーヴェにはこのような巨大なバラードが何曲かある。(まだ、他にもあるだろう)勿論レーヴェは各々の作品で、様々な音楽的な工夫を充分に凝らしている。多分、ドイツ語を母国語としている人には(あるいは母国語と同等に喋れれば)この長大なバラードはドラマティックな音楽が付けられた語り物として、その楽しみが倍加されるだろう。対訳をあてにしている筆者には残念ながら味わえないが...
ご多聞にもれずこのバラードでの主役も物語だ。ここではテキストの対訳を読む手助け、道案内の地図の目印のように解説を進めてゆこうと思う。
曲が始まってすぐに出てくるフレーズ(譜例26)がリフレインのように曲の要所に置かれ、大男の動機の役割を果たしている。皇帝に出会う前、物語の始めの部分はほぼ有節的に歌われてゆく。悪魔の住む森の前に来たあたりからピアノに16分音符で無気味な音型が現われはじめる。(譜例27)


皇帝と別れ森の中に入って行く(譜例28)ところから曲はニ短調からト短調に転調。

真夜中に黒馬に乗って悪魔がやってくるところから、悪魔と別れるまでが6/8拍子で歌われ、最後は変ロ長調のドミナントで半終止する。ヘ長調に転調して、4/4拍子un poco ritenutoで老いた隠遁僧と出会い、巡礼達のために河の渡し守になるまでが歌われる。ここでの穏やかな日々が譜例29のフレーズのリフレインにより表現され完全終止する。さらにピアノのカデンツ(譜例30)でそれからの歳月の経過が示される。

Andante nobile、ニ短調、月日も流れ年老いて髪も白くなった大男は、嵐の夜渡し守をたのむ呼び声に起こされて(譜例31)河を渡るが誰もいない、呼び声は三度リフレインのように続く。

そして、ヘ長調になり金髪の少年(キリスト)が現われる。(譜例32)大男は少年を頭にのせ河に入る。(ニ短調に戻る、譜例33)やっとの思いで向こう岸についた大男に少年は洗礼を与える。ここは譜例32の少年のテーマがUn poco adagio.で歌われることで表現される。大男「クリストフォルス」は悔い改め、キリストと共に天に召される。


Nr.2 Der Räuber(山賊)
四節のテキストの第1節の前半2行と第4節の後半2行、つまり曲の両端が嬰ト短調でその他の部分、曲の主要部はその同主調の変イ長調を主調とする。
ピアノは単に歌の伴奏としてでなく、対等な立場で曲の進行に関わっている。
Allegretto.4/4拍子の特徴的なピアノの前奏(譜例34)で曲が始まり、歌の途中からエンハーモニックの転調でピアノが変イ長調のメロディー(譜例35)を歌に先行して奏する。ここから変イ長調/変ホ長調/変イ長調と三部形式に曲は分かれ、嬰ト短調で譜例34の前奏が戻りテキストの最後の2行が歌われる。


Nr.1 St.Johannes und das Würmlein.(聖ヨハネと毛虫)作品35の1
2/4拍子、Tempo ordinario.主調はイ長調、ピアノの前奏(譜例36/A1)が歌のメロディーを先行する。
曲の構成は嬰ハ短調の中間部をはさんだA/B/A'の複合三部形式。始めのAの部分も二つに分かれ後半(譜例37/A2)はホ長調に転調してピアノの間奏に繋がる。嬰ハ短調に転調して中間部に入る。


中間部Bはピアノ伴奏左手の三連音の細かな律動も止み、短いが内省的な音楽になっている。毛虫が蝶に変身するプロセスがホ長調ヘの転調で表現され、ピアノの間奏に移行して主部に戻る。最後に再びA1のメロディーで詩の最終節が歌われてピアノの後奏でコーダとなる。
Nr.3 Der ewige Jude.(永遠のユダヤ人)
キリストを裏切ったユダ(十二使徒の一人)はその罪を償うため、荒野を永遠に彷徨う、休息は許されない。古ぼけた樫の根元にあるキリストの石像にひざまづき祈りを捧げることで、ようやく罪は許されて天に召される。
4/4、ロ短調、Andante con moto.足を引きずるようなシンコペーションのリズム(譜例38)が曲の前半、半分以上で絶えまなく続く。これがユダヤ人
(十二使徒のユダ)の歩く姿の描写だとすると、歌いだしのiqq.eqというリズムが主人公自身を表すリズム動機(譜例39a)と言える。

疲れ切った姿が解決されない和声進行と絶えまないシンコペーションのリズムで表現される。旅の途中樫の木の根元に石像を見つける
ところで曲はニ長調転調する。(第7節)
ひざまづき祈りを捧げるとシンコペーションのリズムは止まる。(譜例40)

ここからテキストの第9節、ユダヤ人の祈りが始まる。(譜例40a)動機aの音型で歌は高揚し、ロ長調でピアノの美しい高音域の分散和音のなか、神の許しが下りユダヤ人は休息を得る。主和音で上昇するピアノの後奏で曲は静かに終わる。
2002.11.4
作品36の二つの歌曲
聖母マリア信仰あるいはマリア伝説というのはヨーロッパ各地に点在する。おそらくキリスト教がそれぞれの土地の民間信仰や伝承と合体して土着化されたものの名残りだと思うが、それだけに信仰の形体としては根強いものがある。作品36の二つの歌曲はそれぞれにテキストの作者名が副題に書かれていて厳密には完全な伝承とは言えないかもしれないが根底に流れているものは同じだと思う。
Maria und das Milchmädchen(マリアと乳搾りの乙女)作品36の1
アイロス・シュライバー(Aloys Schreiber)の聖母伝説というサブタイトルが付く。テキストは八つの節に分かれている。ヘロデ王の手から逃れた聖母子(キリストとマリア)が荒野の谷間で会った醜い乳搾りの女に助けられ、助けた乙女にも奇跡が現れ天女のような美しい顔を得るという内容のバラード。Andante.4/4拍子。ニ短調で(譜例1)荒野をさすらう聖母子の様子が始めの二節で歌われる。この短調の部分は曲全体の序章であり、主部(乳搾りの乙女が登場する第3節以降)は同主調のニ長調で推移する。間に挟まれるピアノの動機(譜例1)が曲全体を統一するモチーフとして主部でも効果的な役割を果たしている。
譜例1

Sankt Mariens Ritter(聖マリアの騎士)作品36の1
信仰厚い老騎士がその生涯の終わりに臨み、聖母マリアを讃えながら昇天する。L.ギーゼブレヒト(Giesebrecht)の聖なるバラードとサブタイトルがある。
Andante maestoso.ハ長調、4/2拍子。有節的な全五節のテキストは「アヴェ マリア!」(譜例2)のリフレインで区切られながら、騎士の死からその魂の昇天までが主としてピアノの音形の変容で描写される。
譜例2
付点四分音符のq. eというリズム形が騎士を表すリズム動機として全体を統一する。テキストの第4節でピアノがその騎士の動機のリズムを拡大し、四度五度の七(下属和音のドミナント)のフェルマータの上で騎士が最後に息を引き取る場面を描写する。(譜例3)
そして曲の終結部のピアノの後奏ではこのリズム動機が右手の八分音符の分散和音の上昇形に伴われ、昇天する魂を象徴する。(譜例4)
譜例3

譜例4
Sonaten Romanze(ロマンスのソナタ)作品16
ホ長調の作品16のピアノソナタ(作曲者名が書いてないところをみるとレーヴェの自作なのだろう)による。但しソナタ形式ではない。ソナタの多分緩敍楽章を下敷きにして、その旋律部分に歌詞を付けている。原曲を知らないので確実なことは言えないが、歌曲にするために一部(中間部)の省略や。経過的な転調部分の追加がなされているように思える。この作品自体は面識のある人物(女性)にあてたものかどうかは知らないが、ある対象にむけての恋唄であるのは確かだ。
2/4拍子、ホ長調で始まる。テンポの記述はないが緩やかな曲調だ。テキストの各節がABA'B'の四つの部分にわかれ、後半のA'(第3節)から変ニ長調に転調しそのまま終止する。テキストの四節とも、歌はxxx|e.xと同じ律動で始まるのが、詩文で韻を揃えるような旋律のまとまりを与えている。タイトルのSonatenは音楽形式のソナタではなく詩の用語と考えた方が良いと思う。
Das Muttergottesbild im Teiche(池の中の聖母像)作品37の1
作品37の二曲も、それぞれマリアとキリストを題材にしたテキストを用いている。
この作品37の1は、Allegretto, soave.4/2拍子ホ長調、四節の有節歌曲。F.G.ヴェッツエルの聖なる伝説の副題がつく。教会の鐘のようなピアノ伴奏部の主音Miと属音Siの全音符ペダルの響き(譜例5)が特徴的だ。
譜例5

Moorsröslein(苔薔薇)作品37の2
これもH.von シェズィーの聖なる伝説の副題がつく。全七節の説話的なバラード。
Moderato.4/4拍子、イ短調で始まり同主調のイ長調で終わる。全体はA(1,2節)B(3節から5節)C(6,7節)と三つの部分に分かれ、それぞれイ短調・ハ長調・イ長調と三つの調性に分けられている。冒頭のピアノ低音部の三連音のモチーフが(譜例6)曲全体の主題になり、各部分でライトモチーフのように効果的に使われ全体を統一する。
譜例6

Johann von Nepomuk(ネーポムクのヨーハン)作品35の2
副題にE.アンシュッツの聖なる伝説とある、君主(ボヘミア王ヴェンツェル)の理不尽な命令に聖職者としての立場を貫いて従わなかったため、モルダウ河に投げ込まれた司祭(ネーポムクのヨーハン)が神の恩寵により波の上に浮かび、天に召される。全十一節のテキストからなる長大なバラード。
Allegro.4/4拍子、主調はホ短調。ピアノの伴奏部の低声部の動機a(譜例7)を伴って七度で跳躍する威圧的な音型でヴェンツェル王が登場する。さらにピアノの低音部では王の内面の怒りの動機b(譜例8)が提示され高まる、
これが曲全体に渡って心理的な効果をあげている。

ハ長調に転調し曲調が変化して司祭が答える(テキストの第3節)。その抑制された語り出し(譜例9)は王と対照的だ。ピアノの伴奏部に属音Solの四分音符連打のリズムで現れる動機(譜例10c)は司祭の信念を表すかのようだ。この宗教的な雰囲気は第5節の後半、イ短調で怒りの動機bを伴い王によって遮られる。ホ短調に戻り動機aも出現、王は司祭を牢に閉じ込める。動機cから導き出された音形(譜例11、譜例12)が、牢の中で耐える司祭の姿を表すかのようだ。(第6節から7節)そしてモルダウ河から司祭は投げ込まれる(第8節から9節)


そしてモルダウ河から司祭は投げ込まれる(第8節から9節)この部分の終わり近くで譜例12の動機cが沈むように下降する。そしてホ長調に転調(譜例13)『突如河はうねりやめ、奪うがごとく彼を飲み込む』と譜例13のメロディーで第10節が歌われる。最後にピアノの後奏のMiのペダル音の上で動機cのリズム(譜例13)が二度提示され曲は終わる。
この曲の中では音形、リズム動機等が怒り、煩悶、信念等、心理的な内面のドラマを表現するモチーフとして重要な役割を担っている。多分この作品の前後あたりから、この作曲家は意識的にこのような表現手段を自分のものとして使えるようになってきたように思える。
バラードの分野でのこのような達成があって、後にワーグナーは自分の楽劇で、ライトモチーフを用いた心理的なドラマで形作ることが出来たのではないかと思った。

Gregor auf der Stein(岩の上のグレゴール)作品38
作品38のバラード「岩の上のグレゴール」はそれぞれが独立したバラードが五曲つながってひとつの作品になっている。レーヴェの作曲に対するアプローチはテキスト自体の構造を可能な限り音楽作品の構造に生かすと言うのが今まで見た限りでは通常のやり方だ。この作品でもテキストは五章に分かれているので曲の構成もそれに従ったと考えられる。ただここで注目すべきは劇的な構成力と和声的な表現力の拡張である。あともう一歩踏み出せばという所と、反面やや粗雑な書き方とが併存している。五つの曲は最後の曲を除きそれぞれ終止線は引かれずに複縦線で分割されているだけだが、音楽的には完結している。各曲には個別にはタイトルは付けられずローマ数字のみが書かれている。フランツ・クーグラーの聖なるバラードと副題のつく五章に分かれた連続小説のようなテキストは、対訳からギリシャ悲劇のエディプス王的なドラマにキリスト教的な救済がつけ加えられた話のように理解出来た。
第I曲 4/4拍子、Allegro、変ロ長調
全曲の序の部分にあたる。ピアノの前奏の後、その前奏の繰り返しにのって物語が始まる。(譜例15)動機aのリズムq
iqは作品38全体を有機的に統一する。そして第I曲では譜例15のフレーズのリズム形q
iqq iq|q q q がメロディーラインの骨組みとして全体をまとめている。詩の最終行がフォルテの八分音符の上行音階で突然出現する(譜例16)がすぐにピアノの後奏で曲は変ロ長調で終止する。この唄の最後の部分は次の第II曲へ物語を繋げる布石になっている。

第II曲 4/4拍子、Allegro maestoso、変ホ長調
冒頭ピアノの前奏(譜例17)は第1曲目の譜例16の部分と関連している。曲の構成は寄木細工のように幾つかの要素が絡み合いながら発展して行くのだが、曲の進行する主要な動きは変イ長調で始まる下降するフレーズ(譜例19)と上行する短二度の倚音が特徴的な八分音符の音形(譜例20)が組み合わされて進んで行く。主調は変ホ長調だが、開始の数小節の間だけでも副七(近親調のドミナント)の和音を使って変ホ長調→ハ短調→変イ長調と転調を繰り返して揺れ動いている。ピアノの前奏の後半部で現れる旋律の断片(譜例18のb)のリズムxe.xはリズム形として曲が進むに従って重要な役目を担ってくる。

詩の17行目に入る直前、音楽はピアノが下降する半音階で変イ短調になる。リズム動機bが主人公達の不吉な未来を暗示する。(譜例21)この変イ短調の部分の影響を受け曲の雰囲気は沈鬱なものになってくるが、それを打ち消すかのように第1曲目の最後の部分が現れ(譜例16)はじめの部分の曲調に戻って終わる。

第III曲 4/4拍子、Allegro moderato e maestoso、ハ短調

リズム動機bで曲が始まる。全五曲中この曲が最も長い。楽譜の分量だけでも前二曲合わせた以上のページ数だ。また規模が大きいだけでなく、曲の構成と和声的な表現の拡張され方はなかなか興味深い。作曲家としてのレーヴェは、ここで自分の力一杯の仕事をしている。それが結果として、ある意味で先駆的な部分の多い作品になっていると思う。まず劇的であるということだ。強いて分けるとすれば全体は三つの部分に分けられる。5小節目に出てくる二小節のフレーズ(譜例23)は始めの部分でリフレインのように何度も歌われる。そしてこの短いフレーズの後半(Mib・Fa・Solの三つの四分音符)は半終止(ドミナント)しているのだが、その和声が曲の進行に従ってどんどん変化して行く。もう一つここでは、このフレーズ以外ピアノで挿入される短い断片も含めて楽節の切れ目に半終止が多用され、それが解決されずに別の調へ行くことで生じる不安定感が、切迫した感じが徐々に高まって行く効果をもたらしている。

速度を上げながらクレッシェンドしてフォルティッシモでテキストの21行目Allegro assaiの部分に入る。叩き付けるようなピアノの連打音(譜例24c)とこれも執拗に挿入されるピアノの八分音符の動機d(譜例25)は和声を変えながら繰り返される度に緊張を更に高め、伴奏にSibの十六分音符のトレモロになり。(43行目)そこから半音階的に転調し、動機dを挟んで最後の部分に入る。



テキストの49行目「十字架、グレゴールなんとつらい」(譜例26)劇的場面としてはここが頂点であり全体のクライマックスである。声は最高音のSolまでの広い音域を跳躍する。ピアノはむしろ余分なものを切り捨てここまでの流れからゆけばリズム動機dの短縮形と聞こえるリズムc'を刻む、しかしこのリズム形の中には動機aのリズム形がしっかりと組み込まれている。(譜例26、d'とa)全てが明らかになり動機dが低い属音Solまで下降し、音楽としてはコーダに当たる主音Doの上で最後の二行が歌われる。(譜例27)この最後の部分も和声的には最後までハ短調の主和音に解決せず、強いて言えばヘ短調の変終止のように推移して低いFaの全音符で曲は終わる。
注)
動機d(譜例25を参照)は重要な要素になっているのだが、○印をつけた音(資料楽譜p.126の5段目の最終小節)に関しては、MiかMibか迷ってしまう。書式的には曖昧な部分だ。ここにきちんとフラットを書いてMibにするのが前後の繋がりからみて妥当な気がするのだが、1泊目のMi§をフラットにするという選択肢もある。何度も同じ形で出てくるので念のため書いておくことにした。
第IV曲 4/4拍子、Grave変ロ短調
三連音符を含む分散和音の前奏で始まる。(譜例28)テキストは海辺に隠棲するグレゴールの置かれている状況を語りそして彼の長い独白と祈りへと移って行く。音楽もこれに沿って二つの部分に分けられる。前半部では譜例29のeの音型が調性から離れがちになるメロディーラインを韻を踏むようにまとめている。(譜例29)

変ロ短調の属和音上で伴奏が三連音のリズムのみになるところからグレゴールの独白と祈りが始まる。(譜例30、詩の11行目)ここでは譜例31の音型fが信仰の強さを表すモットーのように繰り返される。そして祈りの合間に風景のように譜例28が挿入されながら、祈りの感情は高まり心の平安を望むように主調変ロ短調で完全終止して終わる。

第V曲 4/2拍子、Andante maestoso 変ロ長調
第一部、同主長調の変ロ長調で荘厳に前奏(譜例32)にのって、第X曲が始まる(譜例33)。はじめのレチタティーヴォのような楽節は二度、属音Fa音(変ロ長調の属音)で打たれるq.
ewのリズムで半終止する。

第二部ではテキストの7〜12行目までが、変ホ短調で歌われ、属音Sibが単音でのばされ(譜例34の矢印)終結部に入る。変ト長調のピアノの間奏部にドイツ語が書かれている。楽譜の指示を何とか訳してみると、作者は見えない聖歌隊の歌う古いカトリック教会の聖歌(ルターのドイツ語訳)が響くことをイメージしているらしい。この部分は四声部のコラールのスタイルで書かれている。(譜例34)

これに続いてテキスト13行、女(王妃)の告解が変ホ短調で始まり、徐々に主調の変ロ長調に変化して行く。変ロ長調の主音Sibで、第一部で属音で打たれていた付点音符のリズム動機の音価が二倍に拡大され、ピアノと唄で強調される。(譜例35)ピアノが再び聖歌を歌う中、罪は許され主を讃えながら曲はト長調の変終止で終わる。

Der Bergmann(坑夫)作品39
副題にバラード形式による連作歌集と書かれている。L. ギーゼブレヒト詩による坑夫の生涯を歌った歌曲集でこれも全五曲で構成されている。各曲にはそれぞれの詩の1行目がタイトルとして書かれている。
I Im Schacht der Adern und der Stufen(鉱脈と鉱石埋まる坑内へ)
12/8拍子、Allegro vigroso. ホ長調。四節のテキストが(1,2/3,4)と二部に分けられている。冒頭の音型(譜例36)が短い曲の中でピアノの内声部等にうまく展開されすっきりとまとめられている。

II Vom meines Hauses engen Wandern(狭い我が家で)
4/4拍子、Andantino. ホ長調。これも四節のテキストが二節づつABA'B'とほぼ有節的に分かれている。拍子は異なるが前の曲と同じ調で書かれ、歌の終わり方も同じだ。(譜例37)

III Unter Herzog hat herrliche Thaten vollbracht(領主殿りっぱな功績あげられた)
4/4拍子、Alla marcia vivace. イ長調。五節のテキストによるバラード。行進曲調の前半部(第1〜3節)と、6/8拍子、Allegro
vivace.の後半部の二部に分けられる。始めから第2節までは詩の二行づつ歌われると、ピアノがその功績を民衆が讃えるコロスのように繰り返す形で進行する。第3節の最後ホ長調で完全趣終止する。フェルマータを挟んで後半部に入る。イ長調、四小節の軽快なピアノの序奏(譜例38)から歌に入る。歌詞は第4節、第5節とも前半の二行は同じで、後の二行も殆ど同じだ。従って旋律の音型も有節的なのだが、調を変えることで音楽は進行する。コーダは譜例38のピアノからテキストの前半の二行が繰り返されて終わる。

IV Es stecht ein Klech in der Kapelle(礼拝堂の祭壇飾る高杯は)
4/4拍子、Andante religioso. へ長調。三節のテキストに沿って三つの部分にわかれる。バスの動きに重点を置いた対位法的な伴奏は教会音楽のように曲の雰囲気を形作っている。旋律を重視したためか、やや和声進行に強引なところも目に付くが、敬虔な雰囲気と高まりは十分表れていると思う。
V Als Weibesarm im jungen Jahren(若い女のするように)

12/8拍子、Allegro tranquillo. ホ短調。晩年にさしかかった坑夫の回想が歌われる。前奏の低音部に現れるモチーフが曲全体に重要な役割を果たす。(譜例39)地中に深くもぐって行くような和声の進行とその低音部でうごめくようなモチーフは地下深く坑道で働く坑夫を表しているように感じられる。この前奏の部分は第1節から4節まで各節の間で間奏として表れ、曲が進み、想い出が甦るにつれて転調し、上声部にモチーフが移動し輝きを増してくる。第1節はホ短調で半終止し、間奏はト長調で弾かれ第2節に入る。次の間奏でモチーフは変化して右手に移り(譜例40)ハ長調に転調して第3節に入る。次の間奏でホ長調に転調、第4節から5節は切れ目なく進み、そのまま高揚して終止する。

Der Fischer(漁師)作品43の1

ゲーテの詩によるバラード、主調はホ長調でABAの三部形式である。4/4拍子、Allegro
espressivo. でピアノの前奏が始まる。(譜例41)第1節はほぼ有節的に同じ楽節が二回を繰り返される形で歌われる。


イ長調でピアノの内声部に新しいモチーフ(譜例42の矢印)が表れて第2節に入る。第2節から3節までがこの曲の中間部(主部)になり、ピアノのモチーフが歌の声部に絡み合って誘惑するように展開してゆく、後半部(第3節)で調性も嬰ヘ短調、ニ長調と揺れ動き六連音符の伴奏でモチーフが装飾的に展開し(譜例43)ホ長調に戻りながら中間部が終わる。譜例41の前奏が再現されてAに戻り第4節に入る。後奏で譜例42のモチーフの前半が低音の内声部で二度繰り返されて終わる。
Das nussbraune Mädchen(栗色の娘)作品43の2
ヘルダーによる古スコットランドのバラード。全十二節の有節歌曲。
2/4拍子、Allegretto.コミカルな前奏の後、イ短調で上行する音階が特徴的なメロディー(譜例44参照)で曲は始まる。第1節から3節までは有節的に、しかしリズミックな伴奏は徐々に変化しながらイ短調で推移してゆく。第4節でイ長調に転調。今度はメロディー(譜例44)は下降する音型が主体になり若い娘が答える。

ここから娘と若者の対話が各節ごとに最後まで交互に続く、第4節から9節まで「娘/イ長調」「若者/イ短調」と調性は節ごとに同主調を交代しながら進行する。第9節で大変残酷な若者の宣告が告げられる。ピアニッシモでリズムも重くなるがなぜか、あまり深刻な感じはしない。ニ短調で終止するが、ピアノの間奏で次のヘ長調に転調する経過句を作る。第10節で4/4拍子でヘ長調に転調する。(譜例45)速度もLarghetto,
con amabilla.になり、娘の変わらぬ愛の決意が歌われるが何となく雰囲気が宝塚のレビューを観ているような感じになってくる。(念のため、別に宝塚を貶しているのではありません!でも話の進み具合が一昔前の少女マンガみたいに感じられてしまうのは、きっと筆者が純真な心を失っているからでしょう)それを受けてイ長調、Allegro
vivace.で雄々しく若者がすべてを告白する。なんと若者はこの国の伯爵だったのだ。最後の第12節で娘によって永遠の愛が誓われ、ハッピーエンド(なのだろうか?)で曲は終わる。

堀越 隆一